真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
若菜が先に歩き一番奥の席に座ったところで、メニューが渡される。
珈琲や紅茶はよく口にするけれど、ハーブティーを飲んだのは数回ぐらいだ。
どれを選んでいいか分からないのは私だけではなく、若菜も首を傾げていた。
「今日のおすすめはカモミールをベースにしたブレンドティだって」
「じゃ、それで。香帆は?」
「私も」
若菜が店員さんを呼んでオーダーをしてくれる。まもなくティーポットに入ったハーブティーが運ばれてきた。それと一緒に砂時計も置かれる。
「砂が落ちたらカップに注いでください」
「ありがとうございます」
砂時計の砂は淡い緑色をしていた。それがさらさらと落ちていく。
「今日、悠磨に別れようって言われたの」
砂を見ながらそう言うと、若菜は「えっ」と身を乗り出した。
「どうして? だってふたりうまくいってたよね。年明けには双方の両親とも顔を合わせをしていたから、もうすぐ婚約だと思っていたのに」
「……私もそう思っていた。悠磨、浮気をしていたんだって。で、相手の女性が妊娠した」
「なにそれ‼」
若菜が大きな声を出し、あっと周りを見る。
店内に他にお客さんがいないのを確認してほっとする私とは反対に、若菜はどんと机に手をついた。
「ふざけている。それで香帆はどうしたの?」
「どうって……。どうしようもないじゃない」
子供ができたから結婚すると言われたら、納得するしかない。
まるで伝家の宝刀だ。
「殴ってやる」
「夜道を不意打ちでお願い」
「もう! 本当にむかつく」
若菜が忌々しそうに顔を顰める。そうして今度は泣きそうに眉を下げて私の表情を覗き込んできた。
「大丈夫?」
「ちょっと混乱中。どうしていいか分かんない」
もう、どうしようもないのだけれど。
二十六歳から二十九歳まで、三年間も付き合った。
思い出も沢山あるし、気持ちも整理できない。
どこから手を付けていいのか、途方にくれるばかりだ。
「自分の気持ちをどう持っていけばいいか見当もつかない。それに、母は悠磨を気に入っていたでしょう。別れたなんて知ったら、なにを言われるか」
「あぁ、香帆のお母さん、ちょっと古風な考え方をしているものね」
若菜がオブラートに包んだ言い方をしてくれた。
親子の仲はいいけれど、ずっと専業主婦をしてきた母には、仕事を大事に思う私の気持ちが理解できないようだ。ちなみに父は海外赴任中で、年末年始を日本で過ごすとすぐに赴任先へ渡航した。
砂が落ちるのを見届けると、私たちはそれぞれのカップにカモミールティを注いでいく。甘酸っぱい香りが鼻孔をくすぐった。一口飲むと、その香りがさらに強く感じる。
「おいしい」
「うん、そうだね」
胃の中がゆっくりと温められていく。
ふぅ、とため息を落とした私に若菜は、「そんな男、別れて正解」とか「絶対、天罰落ちる」と、時折冗談も交えながら親身に励ましてくれた。
その声に、少し気持ちが浮上する。
「そう言われると、結婚してから浮気されるよりは、マシだと思えてきた」
「うんうん。絶対そうだよ。それに今だから言うけれど、私、悠磨さんってあまり好きじゃなかったのよね」
「そうなの?」
「うん。香帆の彼氏だから言わなかったけれど、悠磨さんってところどころで女性を軽視する発言をするでしょう? あと、独占欲が強い気がする」
私と悠磨、若菜の三人で食事をしたことが何度かあった。
私の友達と仲良くしたいと言っていた割に、若菜とあまり話していなかった気がする。
珈琲や紅茶はよく口にするけれど、ハーブティーを飲んだのは数回ぐらいだ。
どれを選んでいいか分からないのは私だけではなく、若菜も首を傾げていた。
「今日のおすすめはカモミールをベースにしたブレンドティだって」
「じゃ、それで。香帆は?」
「私も」
若菜が店員さんを呼んでオーダーをしてくれる。まもなくティーポットに入ったハーブティーが運ばれてきた。それと一緒に砂時計も置かれる。
「砂が落ちたらカップに注いでください」
「ありがとうございます」
砂時計の砂は淡い緑色をしていた。それがさらさらと落ちていく。
「今日、悠磨に別れようって言われたの」
砂を見ながらそう言うと、若菜は「えっ」と身を乗り出した。
「どうして? だってふたりうまくいってたよね。年明けには双方の両親とも顔を合わせをしていたから、もうすぐ婚約だと思っていたのに」
「……私もそう思っていた。悠磨、浮気をしていたんだって。で、相手の女性が妊娠した」
「なにそれ‼」
若菜が大きな声を出し、あっと周りを見る。
店内に他にお客さんがいないのを確認してほっとする私とは反対に、若菜はどんと机に手をついた。
「ふざけている。それで香帆はどうしたの?」
「どうって……。どうしようもないじゃない」
子供ができたから結婚すると言われたら、納得するしかない。
まるで伝家の宝刀だ。
「殴ってやる」
「夜道を不意打ちでお願い」
「もう! 本当にむかつく」
若菜が忌々しそうに顔を顰める。そうして今度は泣きそうに眉を下げて私の表情を覗き込んできた。
「大丈夫?」
「ちょっと混乱中。どうしていいか分かんない」
もう、どうしようもないのだけれど。
二十六歳から二十九歳まで、三年間も付き合った。
思い出も沢山あるし、気持ちも整理できない。
どこから手を付けていいのか、途方にくれるばかりだ。
「自分の気持ちをどう持っていけばいいか見当もつかない。それに、母は悠磨を気に入っていたでしょう。別れたなんて知ったら、なにを言われるか」
「あぁ、香帆のお母さん、ちょっと古風な考え方をしているものね」
若菜がオブラートに包んだ言い方をしてくれた。
親子の仲はいいけれど、ずっと専業主婦をしてきた母には、仕事を大事に思う私の気持ちが理解できないようだ。ちなみに父は海外赴任中で、年末年始を日本で過ごすとすぐに赴任先へ渡航した。
砂が落ちるのを見届けると、私たちはそれぞれのカップにカモミールティを注いでいく。甘酸っぱい香りが鼻孔をくすぐった。一口飲むと、その香りがさらに強く感じる。
「おいしい」
「うん、そうだね」
胃の中がゆっくりと温められていく。
ふぅ、とため息を落とした私に若菜は、「そんな男、別れて正解」とか「絶対、天罰落ちる」と、時折冗談も交えながら親身に励ましてくれた。
その声に、少し気持ちが浮上する。
「そう言われると、結婚してから浮気されるよりは、マシだと思えてきた」
「うんうん。絶対そうだよ。それに今だから言うけれど、私、悠磨さんってあまり好きじゃなかったのよね」
「そうなの?」
「うん。香帆の彼氏だから言わなかったけれど、悠磨さんってところどころで女性を軽視する発言をするでしょう? あと、独占欲が強い気がする」
私と悠磨、若菜の三人で食事をしたことが何度かあった。
私の友達と仲良くしたいと言っていた割に、若菜とあまり話していなかった気がする。