真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
名前や具体的な場所は告げずに、私は簡潔にそう伝えた。
隼人くんの眉が、分かりやすく中央に寄る。
「それは酷い。そんな乱暴な客のところへ女性ひとりで行ったのか?」
「ううん、本社のクレーム対応専門の男性社員が同行してくれた。不意打ちだったから避けられなかった」
「他に怪我は?」
「バランスを崩して階段から落ちたけれど、幸い数段だけですんだ。だから大丈夫だよ」
腕を曲げガッツポーズを作って見せたのに、隼人くんの顔は厳しいままだ。
こめかみにかかる髪をそっと避け、赤く腫れた場所に目を細める。
「冷やすものを買ってきたほうがいいよな」
その仕草に、感じる息遣いに、嫌でも頬に熱が集まる。
「だ、大丈夫」
「無理はしなくていいから。身体がしんどいならすぐに帰ろう」
「そんなことない、平気だよ。それに今日は私を甘やかしてくれるんだよね。行こう!」
あえて声を張り上げると、隼人くんは苦笑いで頷く。
そうして私に手を差しだしてきた。
その手のひらを、私はまじまじと見る。
「手相が……」
「いや、そんなボケいらないから。人も増えてきたし、嫌じゃなければ手を繋ごう」
男の人と手を繋いで歩いたことぐらいある。
でも、それは全員彼氏で。付き合ってもいないのに手を繋ぐのはどうなのだろう。
そんな迷いがなかったわけではない。
でも、不思議と嫌悪感はなかった。
だから私はその手を取る。隼人くんは、はにかみながら手を握り返してくれた。
ちょっと照れくさく視線を逸らすと、隼人くんは無言で歩きだす。半歩遅れてあとに続くと、背後から見える耳が赤いのに気がついた。
「隼人くん、もしかして照れている?」
「もしかしなくても照れているから。確認しないでくれる?」
なんだ、隼人くんも私と一緒か。
笑いがこみ上げてきてふふっと声を洩らすと、隼人くんが振り返ってジト目で睨んできた。それから大きくため息を吐く。
「早くいかないと、りんご飴がなくなっちゃうよ」
「それは大変。買い占めないといけないのに」
「他にはなにが欲しい? 綿あめ? かき氷?」
「それ、子供のときに親に言われていたら、泣いて喜んだかも」
冗談を言いながら歩いていくと、どんどん人が増えてきた。
商店街に入ると車は通行止めになっていて、左右に露店が並ぶ。
その通りをまっすぐに行くと神社の石階段があるんだけれど、今夜は石階段が見えないほど人で溢れかえっている。
「すごい人。私が子供の頃より多いかも」
「商店街の人がかなり力を入れているらしい。それからあの神社だけれど、縁結びにご利益があるって知っていた?」
「知らない。初耳」
ここから私の家まで徒歩で十五分。子供の頃は百円を握り締めて、商店街へ若菜とよく来ていた。
神社はそのときからあったけれど、縁結びだなんて聞いた覚えがない。
「有名なの?」
「正確に言うと有名にした、みたい。俺もお客さんから聞き齧っただけで詳しいわけじゃないんだけれど」
神社への階段を上がりながら隼人くんが教えてくれた話によると、この神社にはもともと水神様が祀られていたらしい。
お米を育てるにしても、日々の生活にも水はかかせない。
水神様に御縁を結んでもらった夫婦は水に困らず、仲睦まじく暮らせると伝えられていた。
そこで当代神主は、その水神様にあやかっておみくじを作ったらしい。
デザインは、折り紙で作ったお雛様とお内裏様のようなものだ。
このふたつを神社の端にある手水鉢に入れると、手にしている扇子と笏それぞれに模様が浮かぶそうだ。
隼人くんの眉が、分かりやすく中央に寄る。
「それは酷い。そんな乱暴な客のところへ女性ひとりで行ったのか?」
「ううん、本社のクレーム対応専門の男性社員が同行してくれた。不意打ちだったから避けられなかった」
「他に怪我は?」
「バランスを崩して階段から落ちたけれど、幸い数段だけですんだ。だから大丈夫だよ」
腕を曲げガッツポーズを作って見せたのに、隼人くんの顔は厳しいままだ。
こめかみにかかる髪をそっと避け、赤く腫れた場所に目を細める。
「冷やすものを買ってきたほうがいいよな」
その仕草に、感じる息遣いに、嫌でも頬に熱が集まる。
「だ、大丈夫」
「無理はしなくていいから。身体がしんどいならすぐに帰ろう」
「そんなことない、平気だよ。それに今日は私を甘やかしてくれるんだよね。行こう!」
あえて声を張り上げると、隼人くんは苦笑いで頷く。
そうして私に手を差しだしてきた。
その手のひらを、私はまじまじと見る。
「手相が……」
「いや、そんなボケいらないから。人も増えてきたし、嫌じゃなければ手を繋ごう」
男の人と手を繋いで歩いたことぐらいある。
でも、それは全員彼氏で。付き合ってもいないのに手を繋ぐのはどうなのだろう。
そんな迷いがなかったわけではない。
でも、不思議と嫌悪感はなかった。
だから私はその手を取る。隼人くんは、はにかみながら手を握り返してくれた。
ちょっと照れくさく視線を逸らすと、隼人くんは無言で歩きだす。半歩遅れてあとに続くと、背後から見える耳が赤いのに気がついた。
「隼人くん、もしかして照れている?」
「もしかしなくても照れているから。確認しないでくれる?」
なんだ、隼人くんも私と一緒か。
笑いがこみ上げてきてふふっと声を洩らすと、隼人くんが振り返ってジト目で睨んできた。それから大きくため息を吐く。
「早くいかないと、りんご飴がなくなっちゃうよ」
「それは大変。買い占めないといけないのに」
「他にはなにが欲しい? 綿あめ? かき氷?」
「それ、子供のときに親に言われていたら、泣いて喜んだかも」
冗談を言いながら歩いていくと、どんどん人が増えてきた。
商店街に入ると車は通行止めになっていて、左右に露店が並ぶ。
その通りをまっすぐに行くと神社の石階段があるんだけれど、今夜は石階段が見えないほど人で溢れかえっている。
「すごい人。私が子供の頃より多いかも」
「商店街の人がかなり力を入れているらしい。それからあの神社だけれど、縁結びにご利益があるって知っていた?」
「知らない。初耳」
ここから私の家まで徒歩で十五分。子供の頃は百円を握り締めて、商店街へ若菜とよく来ていた。
神社はそのときからあったけれど、縁結びだなんて聞いた覚えがない。
「有名なの?」
「正確に言うと有名にした、みたい。俺もお客さんから聞き齧っただけで詳しいわけじゃないんだけれど」
神社への階段を上がりながら隼人くんが教えてくれた話によると、この神社にはもともと水神様が祀られていたらしい。
お米を育てるにしても、日々の生活にも水はかかせない。
水神様に御縁を結んでもらった夫婦は水に困らず、仲睦まじく暮らせると伝えられていた。
そこで当代神主は、その水神様にあやかっておみくじを作ったらしい。
デザインは、折り紙で作ったお雛様とお内裏様のようなものだ。
このふたつを神社の端にある手水鉢に入れると、手にしている扇子と笏それぞれに模様が浮かぶそうだ。