真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 そう言って、隼人くんはポケットからスマホを取り出すと、画面を操作して私に見せた。
 お店の口コミを書いているサイトで、TUKUYOMIの外観が映っている。
 画面をスクロールすると、TUKUYOMIに寄せられた口コミが出てきた。
 隼人くんの指を追うようにそれを読んでいた私は、途中から怒りがこみ上げてくる。
「香帆さん、顔が怖い」
「当たり前でしょう。なにこれ! 悪質にもほどがある」
 書かれていた内容は酷いものだった。
『ハーブティーが運ばれてくるのが遅い』『注文と違うものがきた』『まずい』『接客の態度が悪い』など悪質な言葉が続く。
「隼人くん、これ、同一人物が書いたんじゃないかな」
 投稿者の名前はないけれど、二週間ほど前から頻繁に悪意のあるコメントが書かれている。
 メゾン・エテルネル日本橋店のSNSに書かれたコメントとは内容が違うけれど、似た印象を覚える。
「私が勤めているお店にも誹謗中傷のコメントがあってね。これなんだけれど。これ以上続くなら法的処置もとるって本社の人が言っていた」
 私のスマホで、メゾン・エテルネルへの誹謗中傷が書かれた画面を開いて、隼人くんに見せる。
「もしかして、今日お客様のところに謝罪に行ったっていうのは、これが絡んでいる?」
「……ごめん、ノーコメントで」
 お客様については言えない。ただ、この答え方だと「そうだ」と言っているも同然だ。
 隼人くんも察したようで「大変だな」と呟いた。
「香帆さんの責任なの?」
「うーん。正確に言うと部下かな。ちょっとあり得ない失敗をしたの」
「じゃぁ、その人、落ち込んでいるだろうな」
「そうであって欲しいのだけれど」
 私の返答が意外だったようで、隼人くんが怪訝な顔をする。
 言っていいこととダメなことを精査しながら、私は慎重に言葉を続けた。
「自分のなにが悪かったかを理解していないみたいで。彼女、私の叱責で夜も眠れないって人事に相談したの。だから、クレーム対応だけでなく、人事からは穏便に売り場をまとめるようにと言われて……ってごめん。重い話になっちゃったね。とにかく、SNSにそんなこと書かれたら仕事にならないから、しかるべき対応を取ったほうがいいよ。具体的にどうしたらいいか、調べてみようか?」
「あぁ、それならおおよそやり方が分かるから大丈夫。最近、お客さんが減ったからおかしいと思っていたんだ。サイトには、消去の依頼を出している。ただ、口コミって対応が遅いんだよな」
 簡単に削除依頼に応えると、今度は店側にとって有益なものしか掲載されなくなる。
 だから削除依頼はなかなか難しいらしい。
 書いている人物が同ひとり物だと判明したら、また対応が変わる可能性もある。
 でも、アカウントを変えていたりすると調べるのに時間がかかるようだ。
「SNSって便利なものだと思っていたけれど、厄介よね」
「そうだよ。機械そのものが便利になっても、結局扱うのは人だからね。システムだって……」
「うん? どうしたの」
「いや、なんでもない」
 隼人くんは誤魔化すように、焼きそばを食べた。もしかすると、前職に触れる内容だったのかもしれない。
 言いたくないのであれば、私もそれ以上聞くつもりはない。
「さっきの商店街組合長の話だけれど、気が変わったらいつでも言ってね。とはいえ、話を繋ぐぐらいしかできないけれど」
「うん、ありがとう。あのさ、香帆さん」
 隼人くんは私の名前を呼ぶと、ちょっと改まったように背筋を伸ばした。
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