真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 私としては商店街で別れたあとは歩いて帰るつもりだったんだけれど、隼人くんは家まで送ると言ってくれた。
「でも、まだ十時だし」
「街灯も少ないし、足も痛めている。家まで送ったら、俺は香帆さんが普段使っているバス停からバスに乗るよ」
 そう言われると、断れない。さらには私の鞄も持ってくれた。
 怪我をした私を気遣ってくれているようで、歩くスピードはゆっくりだ。
「この道を、子供の頃に香帆さんも通っていたんだ」
「うん、中学校が商店街の方向だからね。隼人くんの実家は横浜だっけ? 帰っているの?」
「ううん。父の海外出張に母もついていったから、ふたりとも日本にいないんだ」
 隼人くんのお父さんも私と同じように海外で仕事をしているらしい。
 聞けば、海外で数年暮らしたこともあるとか。
 父が海外に行くようになったのは私が高校に入ってからだから、私は海外暮らしをしたことがない。
「もしかして、語学堪能だったりする?」
「まぁ、困らない程度には」
「それは、日常会話として?」
「いや、ビジネス会話かな」
 すごい。日常会話がやっとな私としては、羨ましい。
 最近は海外からご来店されるお客様も増えたので、語学力をもう少しつけようと思っていたところだ。
「私は全然ダメだよ」
「でも、コミュ力は高そう。俺なんて、お客さんとの会話にどう返答しようかいつも戸惑ってしまう」
 あぁ、なんとなく想像がつく。
 隼人くんは、見た目が良い。いわゆるイケメン枠だ。
 そうなると、TUKUYOMIには隼人くん目当ての女性も多いだろう。
 相手がお客さんとなれば、露骨に無視できないから苦労しそうだ。
「モテそうだもんね」
「そんな自覚はないんだけれど。でも、声をかけられるのはよくある」
「否定しないところが、却って素直でいい」
「香帆さんは? お客さんから誘われたりしないの?」
 ちょっと嫉妬心を垣間見た気がしたのは、思い過ごしだろうか。
 これぐらいの独占欲は、好ましいの範囲だ。
「女性用のアクセサリーとエンゲージリング、マリッジリングがほとんどだから、それはないかな」
「あー、たしかに。すでに恋人や婚約者がいる人ばかりか」
 メゾン・エテルネルに来るお客様は皆、幸せそうだ。
 悠磨と別れてすぐの頃は、どうして私はあちら側にいけないのだろうと、悩んだりもした。
 暫く歩いていると、バス停が見えてきた。
時刻票を見たら、間もなくバスが来そうだ。
「いいタイミングね」
「えっ、家まで送るよ」
「そうしたらバスを乗り過ごしてしまうかもしれない。この時間は二十分に一本だから乗ったほうがいいよ。それに私の家はあそこだから」
 バス停から駅へと向かう道沿いにある実家を指差す。ここから数十メートルの場所だ。
「あの赤い屋根の家?」
「そう。だから心配しなくても大丈夫だよ。目と鼻の先だから」
「分かった。じゃ、ここから見送るよ」
 隼人くんはそう言いながら、ずっと持っていた私の鞄を手渡してくれた。
「ありがとう。じゃ、またね」
「うん、おやすみ」
 軽く挨拶を交わし、私は歩き始めた。すると、後ろからタイヤの音がして、次にバスの扉が開く音がした。
 振り返ると、バスが停車している。
 隼人くんがステップに足を掛けながら、手を振ってくれた。後ろの扉からは数人が降りて来る。
 バス停のすぐ向こうの交差点には信号があり、私が渡ってすぐに赤に変わっている。
 交差点で出発を待ってもいいけれど、多分、家の前ぐらいでバスが追い付いてくるだろう。そのタイミングで手を振ろうと足を進めると、バスが私の横を通った。
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