真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
第5章 ティアラ
九月末、やっと残暑が和らぎ、風が涼しくなってきた。昨日は秋の新作が入荷したし、次の休みには衣替えをしよう。
悠磨からは、ほぼ毎日復縁を迫るメールが届いている。
ときには縋るように、また違う日には浮気を許さない私を責めるような内容ばかりで、最近は読むのをやめている。
だけれど無視し続けるとまた実家に来るかもしれないから、時々は返事をしていた。
いつまでこんな不毛なやりとりが続くのだろう。
そんなことを考えながら電車に揺られ、職場に向かう。遅番は十一時半出勤だから、電車は比較的すいていた。
お客様のご自宅へ謝罪に行った次の日から、早野さんは欠勤をしている。
体調不良が一週間続いたあと会社に届いたのは、うつ病の診断書だった。
人事が彼女と連絡を取れたのは、そこからさらに一週間後。
上司の叱責により精神的不調をきたした、と早野さんは言ったそうだ。
私は今度は本社に呼び出され、そこで今までの経緯を説明した。
三十分ほど話したあと人事部長から、「もう少しこの件については調べる必要があるから、なにか決定すれば連絡をする」と言われ、今は平常勤務を続けている。
そのせいか、隼人くんとの関係についてもじっくり考えられないでいた。
そんな重い気持ちでバックヤードに入ると、そこにいた木村さん、井上さんが揃って私を振り返った。
その顔が青ざめている。
「なにかありましたか?」
「はい。実は開店と同時に本社から連絡がありました。結婚式場から今朝になってもティアラが届いていないと、本社に電話があったそうです。お客様は日本橋店で予約したと言っています」
「ティアラの予約はどうなっているの?」
言いながら、とりあえず空いている場所に鞄を置く。
井上さんがすかさずパソコンの画面を私に見せた。
ティアラのレンタルをお客様がご希望されたら、まずパソコン画面で該当のティアラがその日予約可能か確認をする。
可能だった場合は前後数日を含めカレンダー部分をクリックして、「日本橋店」「お客様の名前」「結婚式場の名前と住所、連絡先」「式場の担当者名」を記入する手はずとなっている。
本社はそれを確認すると、結婚式場に連絡し、予約に合わせて配送する。
結婚式が終わるとティアラは直接本社に郵送されるため、私たちが関わるのは予約の段階までだ。
画面では、今日の日付けの数日前から他店の予約が入っていて、日本橋店からの予約は入っていない。
「お客様の名前は?」
「長渕様です。でも、それだけでは予約に至った経緯も担当者も分からなくて……」
「長渕様! 私が担当したお客様です。ティアラのレンタルをご希望されたけれど、クレームの謝罪に行く時間が迫っていたから、早野さんに引き継いだの」
「あっ、あの日ですか。それなら私も記憶しています」
木村さんがパソコン画面を操作する。
お客様の個人情報、購買履歴はパソコンで管理している。
長渕様のカスタマー情報を調べてくれるようだ。
私はリングの受け取り票のファイルを手にして、長渕様の名前を探す。
マリッジリングには、結婚式の日付けとおふたりのイニシャルを刻印した覚えがある。
受け取り票には、それらの情報も書いているので、それを見ればおふたりの結婚式がいつか分かる。
「カスタマー情報によると、長渕様は八月十日にマリッジリングを受け取り、ピアスを購入されたようですね」
「ティアラの予約については?」