真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
北区で三時半にティアラを受けとり、そこからU市の式場へ届ける。不可能ではないけれど、かなりぎりぎりだ。
「U市の式場へ事情をお話するわ。長渕様にも連絡をしてお詫びをします。後日、お詫びの品を持って謝罪にいかないといけないわね」
長渕様の返答次第だけれど、これは私ひとりで行くことになるだろう。
カスタマーセンターの社員が同行するのは、裁判沙汰になるほどの大きなクレームのときだけだ。
U市の式場と長渕様に連絡をして、本社にも経過報告の電話をした。
それだけで時間はすでに一時になっている。
「店長、お昼を食べに行ってください」
接客をしていた木村さんが、バックヤードに入ってきた。
手にしているトレイにはクレジットカードが乗っている。
「売り場の様子はどうですか?」
「激込みです。私以外の早番の人は、お昼休憩を取りました」
「だったら私が接客をするから、木村さんがお昼を食べに行ってきて」
私は遅番だからあとでいいと思ったのだけれど、木村さんは難しい顔で首を振った。
「ダメです。もし時間のかかるお客様の接客に入ってしまったら、ティアラを取りにいけません。店長はなんでもひとりで抱えようとするんですから、もっと副店長の私を頼ってください」
珍しく強い口調に、私が目を瞬かせていると、木村さんは困ったように眉を下げた。
「早野さんの件で人事から呼び出しがあったんですよね。彼、以前に人事にいたから聞きました。二股男のクレームもそうですし、カタログの件だって、もっと相談してください」
「……私、木村さんを充分頼りにしているわ」
「そうですか? 前の店長なんてもっと人使いが荒かったですよ。どれだけ愚痴を聞かされたことか。部下に仕事を振るのは、部下を育てる意味もあるのよって笑って言う人でした」
私の記憶では、前店長はとても仕事のできる女性だった。
仕事のできる女性だからこそ、部下に仕事を振れたのかもしれない。
認めてもらおうと、全部私の力で解決しなくてはと思っていた。販売職はチームワークが大事だって知っていたのに、周りが見えていないのは私だったのかもしれない。
「それじゃ、お昼を食べに行かせてもらいます」
「はい。ごゆっくりしてください」
お会計を終え、木村さんは再び売り場へと出ていった。
デスクに置きっぱなしだったスマホを手にすると、隼人くんからメッセージが来ている。
『日本橋にハーブの仕入れにきたけれど、お昼はもう食べた?』
慌ててメッセージが届いた時間を確認すると、十二時だった。
『ごめん、今メッセージに気がついた』『このあとも忙しくなりそうだから、お昼はコンビニですまそうと思っている』
続けて送ると、『分かった』『頑張ってね』のメッセージが返ってきた。
スマホを置きながら、私は長いため息を吐いた。
あちこちとのやり取りで疲れたけれど、頑張らなくてはいけないのは今からだ。
買って来たパンを食べ、北区へと向かう。どちらの結婚式場もメゾン・エテルネルから電車で三十分のところにある。北区へ行き、ティアラを取って戻ってきて、日本橋で東西線に乗り換える。
頭の中でもう一度確認したとき、スマホにメールが届いた。
人事部からで、今から日本橋店に行くと簡潔に書かれている。
えっ、と顔から血の気が失せる。
人事部が来る理由として考えられるのは、私の早野さんへのパワハラ疑惑だ
おそらく他の販売員にもヒアリングをするつもりなのだろう。
急いで木村さんに連絡をすると、分かりましたと簡潔に返信があった。
「U市の式場へ事情をお話するわ。長渕様にも連絡をしてお詫びをします。後日、お詫びの品を持って謝罪にいかないといけないわね」
長渕様の返答次第だけれど、これは私ひとりで行くことになるだろう。
カスタマーセンターの社員が同行するのは、裁判沙汰になるほどの大きなクレームのときだけだ。
U市の式場と長渕様に連絡をして、本社にも経過報告の電話をした。
それだけで時間はすでに一時になっている。
「店長、お昼を食べに行ってください」
接客をしていた木村さんが、バックヤードに入ってきた。
手にしているトレイにはクレジットカードが乗っている。
「売り場の様子はどうですか?」
「激込みです。私以外の早番の人は、お昼休憩を取りました」
「だったら私が接客をするから、木村さんがお昼を食べに行ってきて」
私は遅番だからあとでいいと思ったのだけれど、木村さんは難しい顔で首を振った。
「ダメです。もし時間のかかるお客様の接客に入ってしまったら、ティアラを取りにいけません。店長はなんでもひとりで抱えようとするんですから、もっと副店長の私を頼ってください」
珍しく強い口調に、私が目を瞬かせていると、木村さんは困ったように眉を下げた。
「早野さんの件で人事から呼び出しがあったんですよね。彼、以前に人事にいたから聞きました。二股男のクレームもそうですし、カタログの件だって、もっと相談してください」
「……私、木村さんを充分頼りにしているわ」
「そうですか? 前の店長なんてもっと人使いが荒かったですよ。どれだけ愚痴を聞かされたことか。部下に仕事を振るのは、部下を育てる意味もあるのよって笑って言う人でした」
私の記憶では、前店長はとても仕事のできる女性だった。
仕事のできる女性だからこそ、部下に仕事を振れたのかもしれない。
認めてもらおうと、全部私の力で解決しなくてはと思っていた。販売職はチームワークが大事だって知っていたのに、周りが見えていないのは私だったのかもしれない。
「それじゃ、お昼を食べに行かせてもらいます」
「はい。ごゆっくりしてください」
お会計を終え、木村さんは再び売り場へと出ていった。
デスクに置きっぱなしだったスマホを手にすると、隼人くんからメッセージが来ている。
『日本橋にハーブの仕入れにきたけれど、お昼はもう食べた?』
慌ててメッセージが届いた時間を確認すると、十二時だった。
『ごめん、今メッセージに気がついた』『このあとも忙しくなりそうだから、お昼はコンビニですまそうと思っている』
続けて送ると、『分かった』『頑張ってね』のメッセージが返ってきた。
スマホを置きながら、私は長いため息を吐いた。
あちこちとのやり取りで疲れたけれど、頑張らなくてはいけないのは今からだ。
買って来たパンを食べ、北区へと向かう。どちらの結婚式場もメゾン・エテルネルから電車で三十分のところにある。北区へ行き、ティアラを取って戻ってきて、日本橋で東西線に乗り換える。
頭の中でもう一度確認したとき、スマホにメールが届いた。
人事部からで、今から日本橋店に行くと簡潔に書かれている。
えっ、と顔から血の気が失せる。
人事部が来る理由として考えられるのは、私の早野さんへのパワハラ疑惑だ
おそらく他の販売員にもヒアリングをするつもりなのだろう。
急いで木村さんに連絡をすると、分かりましたと簡潔に返信があった。