真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 本部といっても様々な部署がある。多分、人事部の人は私が今、店を不在にしているのを知らないのだろう。
 人事部にそれを伝えなければと思ったところで、再び木村さんからメッセージが届く。
『店長が不在なことは伝えておきます』 
 やっぱりすごいな、と思う。
 私の不在中に来るかどうかは、人事部の判断に委ねるしかない。
 電車が駅に着くと、地図アプリを見ながら結婚式場へと向かう。
 式場の支配人の連絡先は知っている。電話をすると、三コール目で「はい」と男性の声がした。
「メゾン・エテルネル日本橋店、店長の百瀬です。このたびはわたくしどもの不手際でご迷惑をおかけして申し訳ありません。今、建物の前にいるのですが、どこに向かえばいいでしょうか」
 すると男性は、披露宴が開かれている広間の名前を教えてくれた。今、新郎新婦が来賓者を見送っているところらしい。
 広い廊下を進んでいくと、教えらえた広間の前で、新郎新婦は友人らしき人と二次会の会場について話をしていた。他の列席者はすでに帰ったようだ。
 私に気づいた五十代ぐらいの男性が歩み寄ってきて、胸ポケットから名刺を出す。
「支配人です。ティアラについては衣裳係に真っ先に外すよう伝えております。お式を挙げられたお客様には、急遽ティアラを返却する必要ができたとお話いたしました」
「ご配慮ありがとうございます。新婦様はなにか仰っておられましたか?」
 急にティアラを返却して欲しいと言われ、不快になっていないか心配して聞くと、支配には首を横に振った。
 その横を、新郎新婦が控室へと向かう。
「いいえ。分かりました、とだけ。新婦様の控室までご案内しましょう。こちらです」
 流れるような足取りで支配人は歩いていく。
 日常からかけ離れた優雅な仕草は、見習いたいものがある。
 ここです、と言われた部屋の前で待っていると、スタッフが紙袋を手に出てきた。
「支配人、ティアラですが……」
 私の隣にいる支配人に声をかけながら、視線を私に向けてくる。
「ありがとうございます。確認いたします」
「お願いします」
 スタッフから受け取り、近くのソファに置いて紙袋の中から箱を取り出す。長渕様が予約されたのはピンクダイヤモンドのついたティアラ。それと同じものが箱の中にあった。
 もう一度ふたりにお礼を言って、私は今来たばかりの道を戻る。
 スマホで時間を確認すると、予定より一本早い電車に乗れそうだ。
 電車に乗ったあとは、木村さんへ経過報告をする。
 すると、本社の人間が来ていると返信があった。
 今、早野さんの件で他のスタッフにヒアリングをしているらしい。
 気持ちがずしりと沈む。だけれど、落ち込んでいる時間はない。
 重い気持ちのままスマホでもう一度経路を確認すると。
「えっ」
 思わず声に出して驚いてしまった。
 そこには「東西線、遅延発生」の文字がある。
 東京はひとつの駅に複数の路線が通っている場合もあり、最寄り駅に着けなくても路線を乗り換え他の駅から目的地へ行けたりする。
 でもU市はそうはいかない。
 そうなると、日本橋駅で降りてタクシーに乗って……。
 地図アプリで車の移動にどれだけの時間がかかるか調べると、四十分だった。それなら間に合うと思ったところで、今度は井上さんからメッセージが届く。
『電車、遅延していますよね。さっき接客したお客様から、今日U市付近でお祭りやイベントが重なっているって聞きました。道路が混んでいるみたいです』
 ……一瞬頭が真っ白になる。
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