真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 それを見届けた私は、へなへなと近くのソファに崩れ落ちた。
「よかったぁ」
 間に合ってよかった。長渕様に無事ティアラをお渡しできた。
 気が緩んだせいか、不覚にも涙が滲む。
 やばい、本気で泣きそうだ。
 日本橋店へ電話して無事お渡しできたと話していると、廊下の向こうに隼人くんの姿が見えた。
 手を振れば、駆け寄ってくる。
「香帆さん。あっ、電話中?」
「ううん、もう終わった。ありがとう。どうなるかと思った。寿命が十年は縮んだと思う」
「どういたしまして。メッセージを見たときは驚いたよ。ちょうど義姉の店を出たところだったんだ」
「うわっ、ぎりぎり。もう、無理って思ったとき、隼人くんを思い出して。こんなこと頼むのはお門違いだと分かっているけれど、他に手段がなかったんだ」
「思い出してくれて嬉しいよ」
 隼人くんも、どさっと私の隣に座る。
 廊下の奥にはチャペルにつながる扉がある。
 今頃、沢山の人に祝福されているんだろうな。
「このお礼は必ずする。なにがいい? 高級レストランの食事ぐらいおごっちゃうよ」
「うーん、そうだな。それじゃ、秋の新作を考えているから、それの試食とキャッチフレーズをお願い」
「それじゃ、今までと一緒じゃない。お礼になっていないよ」
 そう言うと、隼人くんは暫く宙を睨み、そして真剣な眼差しを私に向けた。
「それじゃ、そろそろ告白の返事が欲しいかも」
 とくん、と心が跳ねる。
 私の都合でずっと待たせてしまっていた。
 年齢とか、職業とか、母が言う条件が全く気にならないといったら嘘になる。
 でも、私が困ったときに助けてくれて、傍にいるだけで気持ちが和らぐ。
 そんな隼人くんを、私はすでに好きになっていた。
 それなら、この気持ちに正直になりたい。
 これから先、どんな未来が私たちにあるか分からない。
 でも、正解の形が存在しないのであれば、それを一緒に見つけられる人と生きたいと思った。
「……分かった。今夜、TUKUYOMIに行ってもいい? あっ、もしかして今日は定休日?」
 この時間、ここにいるということは、お店は休みだ。
「そうだけれど、義姉のお店でいくつかハーブを買ったから、さっそくハーブティーを作ってみようと思っている。だから、店は閉まっているけれど、来ていいよ」
「じゃ、十時すぎになると思う。あっ、電車、もう動き出したかな」
 調べてみると、ダイヤは乱れているけれど運行を始めたようだ。
 隣りから、隼人くんがスマホを覗き込んできた。
「隼人くんはどうする?」
「俺は店に戻る。じゃ、十時に待っているね」
 そう言って立ちあがる。
 それに倣うように私も腰を上げた。
「疲れた~」
「口調がおばぁちゃんになっているよ」
「十歳は年をとったと思う」
「十年寿命が縮んだり、歳をとったりと大変だな。そうだ、秋のハーブティーは癒しをテーマに考えてみよう」
 隼人くんが笑いながら鞄を持とうか? と聞いてくる。
 そこまで弱っていないと答えながら、私たちは式場をあとにした。

 店に戻ったのは六時を少し過ぎた頃だ。
 今日は祝日だったから忙しかっただろうと思いながら扉を開けると、男性が出てきた。
 ぶつかりそうになってお互い顔を見合わせたところで、向こうが「あっ」と声をあげた。
 すぐに私も彼が誰かを思い出す。
 リモート会議で対談をした人事課長だ。
 彼は身体を横にして、私に入室するよう促す。バックヤードに入ると木村さんがいて、「ただいま」と挨拶を交わした。
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