真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
いろいろ聞いたり報告したりしたいけれど、帰ろうとしていた人事課長が再び入室してきたので、それはあとだ。
「お疲れ様です。今、外出先から戻って来ました」
「お疲れ様。早野くんの件で、他の販売員の話も聞いたほうがいいということになり、来たんだ」
休日なので忙しいのは分かっていたけれど、出勤者が多いことと、人事部としても早く対応を決断する必要ができたので、急遽来店したらしい。
人事課長はそう説明しながら時計を確認する。
「私も、再度お話をしたほうがいいでしょうか?」
「いいや、その必要はない。早野くんからは八月十日に店長から酷く叱責され、詰め寄られたと聞いたのだが、それについては山岸くんが詳しく知っているようで、今から本社に戻って話を聞くことになっている」
「山岸さんが、ですか?」
カスタマーセンターの山岸さんの名前が急に出てきて、思わず問い返してしまった。
不思議そうにする私に、木村さんが経緯を教えてくれる。
「私が話をしたんです。彼、日本橋店へ来たとき、店長と早野さんの会話を偶然聞いていたらしくて。それで人事課長に山岸さんにもヒアリングしてもらうよう頼みました」
あの日、早野さんとの話を終えてすぐ、山岸さんがバックヤードに入ってきたのを思い出す。
「山岸くんのことはよく知っている。他の従業員にも聞いたが、早野さんの対応には困っていたようだな。ちなみに店長について悪く言う従業員はひとりもいなかった」
「えっ?」
「よく頑張っていると。あっ、山岸くんを待たせているので、私はこれで失礼するよ」
そう言うと、人事課長は急ぎ足で扉へ向かった。
ドアノブに手を掛けたところで、思い出したように振り向く。
「おそらく、百瀬くんに対しての処分はないだろう。あとは人事部の仕事なので、こちらに任せてくれたらいい」
「あ、ありがとうございます」
バタン、と扉が閉まる。
呆気にとられている私の横で、今度は内扉が開き、井上さんが顔を出す。
「あっ、店長、お戻りになっていたんですね。無事ティアラを届けられたようで、ほっとしました」
「心配かけてごめんね。売り場は大丈夫?」
「はい。パワハラの件も解決すると思いますよ。店長が頑張っているのは、皆知っていますから。木村さんなんて、夏のカタログを見たお客様がどれだけ来店されたか、数字を使って説明していました」
「数字?」
夏のカタログといえば、私の案でお客様にお手紙付きで送ったものだ。
業務量が増えたと、皆不満を言っていたはずだけれど。
私が首を傾げると、井上さんはパソコンを指差した。
「お手紙付きでカタログを送ったお客様の何割が、この夏に来店されお買い上げしてくださったかをまとめた数字です。本部から直接送ったカタログと比べ、来店率が三倍ありました」
「すごい、こんなに反響があったんだ。それに、私、てっきり店長として未熟だと思われていると感じていた」
「たしかに、前店長と比べる人はいましたが、それは初めの頃だけです。今では皆、百瀬店長を信頼しているんですよ。早野さんが起こした数々のクレームを適格に処理してすごいって話しています」
その言葉に、肩から力が抜ける。それと同時に、身体の内側がぽかぽかとした。
よかった、私のしてきたことは間違いじゃなかったんだ。
「店長、泣かないでください!」
「そ、そうね。ごめんなさい。感傷に浸っている場合じゃなかったわ」
じわりと滲んだ涙を指先で拭い、気持ちを落ち着かせる。
ティアラの一件を本社に連絡しなくては。
報告をすると、電話口に出た担当者もほっと息を吐いた。
そのあとは、長渕様が新婚旅行から帰ったタイミングで、私が謝罪のアポイントを取ると決まり、各結婚式場へのお詫びの手紙は本社が送ることになった。
そんな一連のやり取りをし、その日の勤務は無事に終わった。
「お疲れ様です。今、外出先から戻って来ました」
「お疲れ様。早野くんの件で、他の販売員の話も聞いたほうがいいということになり、来たんだ」
休日なので忙しいのは分かっていたけれど、出勤者が多いことと、人事部としても早く対応を決断する必要ができたので、急遽来店したらしい。
人事課長はそう説明しながら時計を確認する。
「私も、再度お話をしたほうがいいでしょうか?」
「いいや、その必要はない。早野くんからは八月十日に店長から酷く叱責され、詰め寄られたと聞いたのだが、それについては山岸くんが詳しく知っているようで、今から本社に戻って話を聞くことになっている」
「山岸さんが、ですか?」
カスタマーセンターの山岸さんの名前が急に出てきて、思わず問い返してしまった。
不思議そうにする私に、木村さんが経緯を教えてくれる。
「私が話をしたんです。彼、日本橋店へ来たとき、店長と早野さんの会話を偶然聞いていたらしくて。それで人事課長に山岸さんにもヒアリングしてもらうよう頼みました」
あの日、早野さんとの話を終えてすぐ、山岸さんがバックヤードに入ってきたのを思い出す。
「山岸くんのことはよく知っている。他の従業員にも聞いたが、早野さんの対応には困っていたようだな。ちなみに店長について悪く言う従業員はひとりもいなかった」
「えっ?」
「よく頑張っていると。あっ、山岸くんを待たせているので、私はこれで失礼するよ」
そう言うと、人事課長は急ぎ足で扉へ向かった。
ドアノブに手を掛けたところで、思い出したように振り向く。
「おそらく、百瀬くんに対しての処分はないだろう。あとは人事部の仕事なので、こちらに任せてくれたらいい」
「あ、ありがとうございます」
バタン、と扉が閉まる。
呆気にとられている私の横で、今度は内扉が開き、井上さんが顔を出す。
「あっ、店長、お戻りになっていたんですね。無事ティアラを届けられたようで、ほっとしました」
「心配かけてごめんね。売り場は大丈夫?」
「はい。パワハラの件も解決すると思いますよ。店長が頑張っているのは、皆知っていますから。木村さんなんて、夏のカタログを見たお客様がどれだけ来店されたか、数字を使って説明していました」
「数字?」
夏のカタログといえば、私の案でお客様にお手紙付きで送ったものだ。
業務量が増えたと、皆不満を言っていたはずだけれど。
私が首を傾げると、井上さんはパソコンを指差した。
「お手紙付きでカタログを送ったお客様の何割が、この夏に来店されお買い上げしてくださったかをまとめた数字です。本部から直接送ったカタログと比べ、来店率が三倍ありました」
「すごい、こんなに反響があったんだ。それに、私、てっきり店長として未熟だと思われていると感じていた」
「たしかに、前店長と比べる人はいましたが、それは初めの頃だけです。今では皆、百瀬店長を信頼しているんですよ。早野さんが起こした数々のクレームを適格に処理してすごいって話しています」
その言葉に、肩から力が抜ける。それと同時に、身体の内側がぽかぽかとした。
よかった、私のしてきたことは間違いじゃなかったんだ。
「店長、泣かないでください!」
「そ、そうね。ごめんなさい。感傷に浸っている場合じゃなかったわ」
じわりと滲んだ涙を指先で拭い、気持ちを落ち着かせる。
ティアラの一件を本社に連絡しなくては。
報告をすると、電話口に出た担当者もほっと息を吐いた。
そのあとは、長渕様が新婚旅行から帰ったタイミングで、私が謝罪のアポイントを取ると決まり、各結婚式場へのお詫びの手紙は本社が送ることになった。
そんな一連のやり取りをし、その日の勤務は無事に終わった。