真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで

 夜十時、TUKUYOMIへと向かう。
 窓には遮光カーテンが掛けられていて、真っ暗だ。
 オープン当時、カーテンはなかった。
TUKUYOMIは今でこそ火、木、日曜日を営業日と決めているけれど最初はまだ不定休で、隼人くんが試作品を作るために電気をつけていると、営業していると勘違いして訪ねて来るお客さんがいたらしい。
 そこで遮光カーテンにしたと聞いた。
 扉の向こうから声をかけると、「鍵はあいているよ」と声が返ってきた。
 店内に入ると、隼人くんがハーブティーを作っている。
「新作?」と聞けば、「うん」と頷く。
 カウンターの席に座りながら、私は再度今日のお礼を口にした。
「今日は本当に助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
「それから、私のパワハラの件だけれど、それもいい方向で解決しそうなの」
「おぉ、良かった。もっとも、香帆さんはなにも悪くんないんだから、当然だけれど」
 話しながら、カウンターに置かれたままのハーブの袋を手にする。多分、今日買ったものだろう。
「ラベンダー、リンデン、パッションフラワー、バレリアンは初めて聞いた」
「全部、安眠を促すハーブなんだ」
「あれ? 秋のテーマは癒しじゃなかったっけ?」
「癒しを追及したら、睡眠になった」
 なるほど。あながち間違っていない気もする。
「これらを全部使うの?」
「うーん、できれば。いい配分で調合できればと思っている」
 そう言って、数個のティーポットを私の前に並べる。
「少しずつでいいから全部飲んで感想を聞かせてほしい」
「分かった。でも安眠効果のあるハーブをこんなに飲んだら、私、ここで眠ってしまうかもよ?」
「あれ、気づかれちゃったかな。それが狙いだよ」
 隼人くんが意地悪く目を細める。
 それが妙に色っぽくて、不覚にもときめいてしまう。
 今夜は私の気持ちを伝えるつもりで来た。それもあってか、いつものような軽口が出てこない。
 意識をしすぎて落ち着かない私を、隼人くんが不思議そうに覗き込んできた。
「どうした……」
――バリン
 隼人くんの言葉に重なるように、窓ガラスが割れる音がした。
 それと同時に隼人くんが店を飛び出していく。
「この前から店に嫌がらせをしているのは、お前だな!」
 後に続いて慌てて追いかけると、道の真ん中に黒いシルエットが見えた。
 誹謗中傷のコメントを書いた犯人だろうか。隼人くんが犯人を捕まえるようと地面を蹴る。
「逃げても無駄だ。玄関付近には防犯カメラを設置した。逃げればそれをネットで晒す」
 その言葉に、犯人の足が止まる。
「俺に言いたいことがあるなら、言えよ」
 普段とは違う荒々しい口調に、私の身体が強張る。警察に連絡したほうがいいのだろうか。
 スマホをポケットから取り出そうとすると、隼人くんがそれを制した。
「――悠磨さん、俺もできることなら穏便にすませたい」
「えっ、悠磨⁉」
 隼人くんの口から出たその言葉に、目を見張る。
 呆然とする私の前でシルエットはゆったりと動き、近づいてきた。
 やがて、店のドアから漏れる灯で顔がはっきりとする。
「……どうして? えっ、さっき店に石を投げたのは悠磨なの? なんでそんなことを!」
「石だけじゃない。真っ赤なペンキでベンチとブランコを汚したのも、お前だろう?」
 その言葉に、夏祭りを思い出す。
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