真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 隼人くんと連絡がとれなくてTUKUYOMIまで行くと、隼人くんは加藤くんと一緒にペンキを塗っていた。あのときはDIYだと笑っていたけれど、いたずら書きを消していたんだ。
 そして、お祭りの後に私を待ち伏せしていた悠磨の腕には、赤いペンキが付着していた。
「なんのことだ、知らないな」
「うそっ! だってあの日、悠磨の腕は赤く汚れていたもの。悠磨と隼人くんに接点はないでしょう? どうして嫌がらせなんて……」
 そこまで言って、思い至った。
 悠磨と隼人くん、ふたりを繋ぐ接点がひとつだけある。――私だ。
「もしかして、私のせい?」
「あぁ、そうだよ。お前がこんなヤツに気をとられるから。別れろって何度言っても聞く耳を持たなかったから、こいつに思い知らせてやろうと思ったんだ」
「それでお店に嫌がらせをしたの?」
 信じられない気持ちで聞くと、悠磨は歪な笑みを見せた。
「この店がなくなれば、香帆とそいつの接点もなくなるからな。だいたい、ろくに客も来ない店を週に数回だけ開けるなんて、社会人として失格だろう。女にたかって生活しているに決まっている。俺は、そんなヤツから香帆を救い出してやろうと思ったんだ」
「勝手なこと言わないで‼」
「勝手なのは香帆だろう。俺が結婚してやるって言っているのに、たかが浮気ぐらいで意地になって。挙句の果てにしょうもない男に引っかかるんだから、見ていられない。お前は、俺がいないとダメなんだ。お義母さんだって、そう言っていただろう」
 目を吊り上げ、自分勝手な理由を並び立てる悠磨は、私の知っている彼ではない。
「悠磨、こんなことをしても、私の気持ちは戻らないよ。悠磨とよりを戻せないのは、私を裏切った悠磨を許せないからだもの」
「たった一度の浮気だろう。そんな経験のある男なんて、他にもいる」
「他にいるからなんだって言うの。大事なのは私が悠磨を許せないっていうことだよ。そうやって悠磨は今も私の気持ちを蔑ろにして、自分の願望を押し付ける。そんな悠磨のどこを、好きになれるの?」
 シンと沈黙が落ちた。
 悠磨ががっくりと項垂れる。彼は自分の理想とする人生に必要なピースを探していただけなんだ。
 妊娠が嘘だった。彼女と別れた。
本来埋まるはずだったピースが欠けて、それを埋めるためだけに私に執着した。
だって、悠磨は今の私を全然見ていない。
私がなにを考え、どう感じているのか知ろうとしない。聞きもしない。
 私を守るかのように立つ隼人くんに、どうして犯人が悠磨だと分かったのかと聞くと、悠磨を睨みながら教えてくれた。
「店の口コミに、酷い誹謗中傷が書かれていると話しただろう。サイトに頼んで調べたところ、そのひとつが悠磨さんの働いている会社から書かれたと分かった。会社のパソコンから投稿するなんて、危機意識がなさすぎだな」
 初めて聞く内容に驚きながら悠磨を見れば、真っ青な顔で立ち尽くしていた。
 そんな悠磨を睨みながら、隼人くんが言葉を続ける。
「おそらく、身バレしないようにスマホやタブレット、数種類のパソコンから場所とアカウントを変えてサイトにアクセスしていたんだろう。これは立派な犯罪だ」
「し、知らない。俺はそんなことやっていない。そもそも、お前は俺の働いている会社を知らないだろう」
「知っているよ。俺の元同僚が今でもそこで働いているし。おっ、ちょうどタイミングよくそいつが来たみたいだ。その件で、今夜話をする約束をしていたんだ」
 靴音がして、半袖シャツにデニムの男性が現れた。
 ちょっと猫背でサラサラの黒髪。黒ぶち眼鏡のその顔には覚えがある。
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