真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
「加藤、さん?」
「えっ、加藤、どうしてここに?」
 悠磨と私の声が重なる。
 もしかして、ふたりは知り合い?
「なんで加藤がここにいるんだ? それに元同僚って?」
 悠磨は加藤くんと隼人くんを交互に見る。 
 加藤くんは呆れるようにため息を吐くと、隼人くんを指差した。
「堀川隼人、元IDFのカリスマプログラマーです。そのせいで隼人にばかり仕事が偏って、体調を崩して昨年末に辞めました。それがあって、IDFは働き方改革をしたうえで、新たに五人のプログラマーを雇ったんです。隼人の抜けた穴を埋めるには、それぐらいの人数が必要でしたからね」
 いきなり明かされた事実に、私だけでなく悠磨も呆然とする。
 IDF、イノベーティブ・データ・ファウンデーションズは悠磨が勤めている会社の通称だ。
 隼人くんがそこのカリスマプログラマーだったなんて。
 でも、今までに隼人くんから聞いた会社を辞めた時期や理由、それから悠磨の再就職のタイミングを思い出すと、ぴたりと合致する。
「加藤にここに来てもらったのは、SNSの誹謗中傷の件です。IDFから誹謗中傷の投稿があったのが分かり、加藤に調べてもらいました。それで、犯人が悠磨さんだと分かった」
「そんな。履歴はちゃんと消し……いや、違う。きっと誰かが俺のパソコンでコメントを投稿したんだ」
「たしかに誹謗中傷のコメントだけならそうやって逃げれたかもしれませんが、悠磨さん、今俺の店に石を投げましたよね。そのふたつが無関係とは思えないんですけれど」
 隼人くんが割れた窓を指差す。
 犯行は防犯カメラに写っているし、言い逃れのしようがない。
「加藤くん、悠磨がした犯罪を会社も把握しているの?」
 私の問いに、加藤くんは短く「さっき報告した」と答えた。
 それを聞いた悠磨が、がたがたと震えだす。顔色は青を通りこして白くなっている。
 IDFは取引先からシステムやプログラム構築の依頼を受けている。それにはセキュリティー対策も入っていて、ネット犯罪に対する認識はとても厳しい。
 会社に知られたら、解雇だってありえる事案だ。
加藤くんが「佐竹さん」と悠磨の苗字を呼んだ。
「佐竹さん、私物のタブレットを会社に忘れていましたよ。忘れものとして課長が預かってくれています」
「あ、あぁ……?」
 どうしてここで急にタブレットの話になったのか、悠磨は意味が分からないと首を捻る。
 そんな悠磨に、加藤くんは呆れるように肩を竦めた。
「タブレットからTUKUYOMIへの誹謗中傷が見つかったら、いいわけできないですよ。私物だからまだ調べてはいませんが、明後日出勤したら課長から話があると思います」
「あぁ、そういうことか。それならいくら調べてもらってもかまわない」
 悠磨は平然と言うと、にやっと笑った。
 私はパソコンやタブレットにそれほど詳しくはない。
 でも、専門知識があれば、操作履歴を消すのが可能なのは知っている。
 多分、悠磨の余裕の笑みから察するに、調べても分からないようにしているのだろう。
「言っておきますが、小細工していても無駄ですからね。こっちには隼人がいる。隼人が調べれば、操作履歴ぐらいすぐに分かります」
「‼」
 加藤くんは絶句する悠磨を押しのけるようにしてTUKUYOMIの前まで行くと、割れたガラスを指差した。
「隼人、警察に連絡は?」
「今からする。香帆さんはもう帰ったほうがいい」
「そんなわけにはいかない。だって、悠磨がこんなことをしたのは、私と別れたからだよ。ちゃんと警察に説明する」
 隼人くんと加藤くんが顔を見合わせる。
 どうすべきか迷っているようだ。
「どのみち、私も警察に呼ばれると思う。それなら、隼人くんと一緒に事情を説明したほうがいいはずだよ」
「……たしかにそうだな」
 渋々ながら隼人くんは頷くと、ポケットからスマホを取り出した。
 加藤くんは悠磨の腕を掴むと、お店の前のベンチに座らせる。
 そうして、まるで逃亡を防ぐかのように悠磨の前に立った。
 やがて来た警察官にすべてを話し、警察署にも赴き、帰宅できたのは空が薄っすらと明るくなった頃だった。
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