真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
 第六章 ハーブティー

「朝飯、食べていく?」
 タクシーの中で欠伸をかみ殺していると、隼人くんがそう聞いてきた。
 お母さんには昨晩のうちに連絡をして、事情を説明している。
 悠磨が隼人くんのお店に対して行った数々の営業妨害に、言葉を失くしていた。
 帰ったら、根ほり葉ほり聞かれるんだろうな。
そんな重い気持ちでいたところへのお誘いだったので、私は迷わず頷いた。
お店の窓はとりあえず段ボールで塞いでいる。
その段ボールを横目にカフェに入ろうとすると、「そっちじゃない」と言われた。
隼人くんが指差すのは、お店の二階だ。
「いいの?」
「ちょっと散らかっているけれど、それでよければ」
 言いながら、隼人くんの足はすでに階段へと向かっていた。
外廊下を進んで、一番奥の扉で立ち止まる。「どうぞ」と言われて入った部屋は、言葉とは裏腹にすっきりと片づいていた。
「すごい。私の部屋より綺麗かも」
「こっちはね。奥の仕事部屋はかなりぐちゃぐちゃだよ」
「ハーブが沢山置いてあるとか?」
「いや、そっちの仕事じゃなくてプログラマーのほう」
 隼人くんは会社を辞めたけれど、そのあとはフリーランスのプログラマーとして仕事を請け負っていたらしい。
 前会社の社長は、隼人くんが体調を崩したことにかなり責任を感じていて、元気になったらいつでも戻ってくるようにと言われているそうだ。
 でも、隼人くんは今のところ復職をするつもりはないらしい。
 隼人くんに仕事を依頼するのは前会社だけでなく、知り合いや、知り合いのそのまた知り合い、なんて場合もあると言う。つまりはそれぐらい有名な人らしい。
 警察署で、加藤くんが私にそう説明した。
いまいちピンとこないでいると、加藤くんは「優に俺の倍は稼いでいる」と言って笑った。それが冗談か本気か分からないが、隼人くんが「そこまでかなぁ」ととぼけていたから、あながち外れてはいないだろう。
 悠磨は当然ながら、まだ帰宅を許されていない。
 隼人くんは訴えることもできたんだけれど、示談をすると言っていた。
 もしかすると、悠磨の暴走の原因が私にあるから気を遣っているのかと思って聞くと、「それもあるけれど、前会社を巻き込みたくない」と話した。
ただ、示談となっても、悠磨は仕事は続けられないだろう。
 胸に重苦しい感情が広がる。
 悠磨がしたことは許せない。でも、だからといってこの結末にすっきりした訳ではない。
 いつか立ち直って、人生をやり直して欲しいな、と思う。
「朝食を作るから、適当に座って」
「ありがとう。プログラマーの仕事って、毎日しているの?」
「うーん。締め切りもあるけれど、がっつりパソコンに向かうのは週三日までにしている。その日以外は、数時間ってところかな」
 体調を崩して会社を辞め、ハーブティーカフェを始めたと聞いていたから、働く時間はもっと少ないと思っていた。
「プログラマーの仕事とハーブティーカフェの二つの労働時間を合わせたら、かなり長くなるんじゃない。大丈夫?」
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