心の彩はかわらねど

『竹取物語』
 この出だしが聞こえると、彩葉は懐かしい記憶に包まれます。小学生の頃の読み聞かせの時間です。その日来たのは、若い女性でした。
『昔むかし、あるとこに、竹取のお爺さんがおりました。お爺さんが竹を取りに行くと、なんと光る竹を見つけました。竹を切ってみると、中には小さな女の子が寝ておりました』
 幼き彩葉は、彼女の温かい声とかわいい本の挿絵に、夢中になりました。
 やがて美しい女性になったかぐや姫は、五人の貴公子に結婚を申し込まれます。そこでかぐや姫は、彼らに注文をしました。
『一人目には、仏の御石の鉢を。二人目には、蓬莱島にある玉の枝を。三人目のには、火鼠の皮の衣を』
 残りの二人にも、人間には絶対に手に入らない宝物をお願いしました。貴公子たちは、あの手この手を使って必死に頑張りましたが、かぐや姫と結婚することはできませんでした。
 このくだりを聴いている彩葉は、つまらなそうな顔をしていました。
(絶対にムリに決まってるのに、必死に頑張ってバカみたい)
『ついには国の帝も恋をして、かぐや姫に何枚も手紙を送りました。
 心のこもった手紙に、かぐや姫も心が動きました。けれど『結婚はできません』と断りました。
〝わたしは月に帰ります〟
 満月の夜、かぐや姫はお爺さんとお婆さんにそう告げました』
 話を聞いた帝は、かぐや姫を帰さないと軍を構えました。しかし結局かぐや姫は、月に帰ってしまいました。
 本を閉じる手前、女性は言いました。
「どれだけお金や力を持ってたとしても、人が人である以上、完璧完全にはなれないのです」
 その言葉に、彩葉は口をへの字に曲げて、うつむきました。
(だったら何を望んでも、どうせムダじゃん)
 心の声が聞こえたかのように、女性は彩葉を見て言いました。
「けどな、夢見ることは、無駄なことじゃないよ。夢は希望で、明日を生きていくための力になんじゃけぇ」
 彩葉は顔を上げ、彼女の顔を見ました。
「それに、かぐや姫のためにて一生懸命頑張った貴公子たち、かっこよくなかった?」
(え……)
 彩葉は、素直に首を横に振りました。
「あたしはかっこええと思うよ。人って怖がりでさ、挑戦なんてよーせんのよ。
 けど、この貴公子たちは姫のためにて諦めんかった。ぶちかっこええわ」
 それを聞いた幼い彩葉は、目を丸くしました。
 そして、その光景を見ていた、今現在の彩葉も目を丸くして、心を揺さぶられました。
(そんなふうに思う人もいるんだな……)
 大きな衝撃をくらった彩葉は、残った響きを忘れないまま、後ろへ倒れ、またしても深い深い闇へと沈んでいきました。
 彩葉の心に、温かい灯が宿りました。それはポカポカと全身を温めました。

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