心の彩はかわらねど
(ここは――どこだっけ)
目を覚ますと、彩葉は白くかすんだ知らない場所にいました。すぐ側の窓ガラスからは、銀色の日の光が入っていました。
心がざわざわと落ち着きません。
彩葉がいるのは、病院のベッドの上。入学テストの日に高校前で倒れてから、かれこれ3日も眠っていました。
(なんでわたし、こんなところにいるんだろう)
彩葉はごろんと体を横にして、白い天井をぼんやりながめていました。
「失礼しまぁす」
かすかな声が聞こえると、カーテンが開きました。
「おはよー、彩葉ちゃん」
現れたのは、夢で『竹取物語』を聞かせてくれた、あの女性でした。
(ああ! わたしの推しの――ええっと――)
彼女のことは心では理解しましたが、名前が出て来ませんでした。
「あたしは大月輝媛。物語博士ぇやっとってね、これ書いた人じゃよ」
輝媛は、傍らのテーブルに置かれた『竹取物語』の絵本を見せました。
(そうだ、輝媛先生だ。……でもなんで、わたしの目の前に!?)
彩葉の頭は、倒れたときに強く打ち、怪我を負っていました。脳裏はふわふわとした雲海のようでいて、考えるのも大変でした。
「君のお母さんに頼まれたんよ。彩葉ちゃんを見ててほしいって。本もお母さんが持って来たんじゃよ」
(わたしの母が?)
家族のことも、すぐに思い出しました。
「そう、ですか」
力なく答える彩葉に、輝媛は切なげに、そっと肩を落としました。
「食べたいもんある? 買うてくるよ」
「メロンパンを……お願い……します」
「りょうかーい!」
輝媛は元気に返事をして、病院のコンビニへと歩いていきました。