心の彩はかわらねど
物語
「物語はな、人の暮らしとよー繋がっとんのじゃ。昔の暮らしを知ることで、お話への理解が深まるかもな」
そう輝媛は言いました。
輝媛の弟子として、大月家に来た彩葉は、玄米と味噌汁、漬物だけの質素な食事と向かいあっていました。
「ふりかけ、好きなのかけていいよ」
と割烹着姿の克地は言い、物語博士で師匠の輝媛が、この食事の説明をしました。
「この質素なごはんは、日本じゃ何千、何百年も前から食べられてきたソウルフード、物語の源じゃ」
「うちじゃぁ、いつもこれじゃよ」
タケがほのぼのと言います。
(ストイックだなぁ……)
ぽかんとそう思う彩葉に、克地が笑いました。
「ガチだよね。用意する方は超絶楽だよ。全部インスタントだし」
(じゃあなんで、エプロンなんて着てるんだろう)
輝媛はさらに言いました。
「食べる前には、手を合わせて〝いただきます〟て言うんよ。命と用意してくれた克地ちゃんに感謝してな」
(全部インスタントだけど)
そう思いつつ、彩葉は「いただきます」と言い、箸を手に取りました。
食事中、輝媛は彩葉にたずねました。
「彩葉ちゃん、何で君は今、生きとんじゃと思う?」
「命があるからですか?」
「何で命があるの? てか、そもそも命って何?」
「え」
彩葉は戸惑い、固まってしまいました。
「わからないです」
お手上げをする彩葉に、輝媛は穏やかに笑って言います。
「命はな、天国からきて、生き物に宿った魂のことを言うんよ。魂の〝い〟が〝うち〟にあるけぇ〝いぬち〟〝いのち〟ってなったんじゃと」
「へぇ〜」
「まぁ、知らんけどな!」
輝媛は、ごま塩をかけたご飯をぱくっと食べました。変な気持ちになった彩葉は、言葉が出ませんでした。
「雑ですね」
克地が代弁をするように言いました。
「大昔の話じゃけぇ。諸説あんのじゃ」
輝媛は話を続けました。
「けどな、ほうやって人はいろんな意味や理由を作うて、この世界を知ろうとしてきた。ほれが物語の起源じゃ」
話を聞いて、彩葉は心がざわつきました。
「……つまり、嘘ってことですか」
「さあな。少なくとも、人間社会いうんは、全部物語でできとるんじゃよ。
な、おばあちゃん!」
輝媛は、親しむようにゆっくりと味噌汁を味わっているタケに話を振りました。
「ほうじゃな。彩葉、人が抱えとる苦しみっちゅうのはのはな、自分の心が作り出した幻なんじゃ。ほんまにあるもんじゃないんよ」
「どんな物語を信じて、どんな生き方がしたいとか、自分で決めていいんだよ」
と克地も言いました。
「この世界は自由なんじゃよ」
最後に輝媛が言いました。
(心が作った幻、物語は自分で決めていい、この世界は自由)
彩葉は、三人の言葉をゆっくり噛みしめ、心がじんわりと温まりました。