心の彩はかわらねど
 時は3月の末。桜の花が咲いた大月家の庭で、輝媛たち四人がお花見をしていました。
 輝媛は、彩葉たちに物語を披露しました。
「昔むかし、ある村じゃぁ『桜の花が咲いた日に、サの神さまが降りてくる』と言い伝えられとったんよ。
 けど、ある年、桜がぜんぜん咲んくなった。村は食べもんがなくなったり、嵐が来たりして、よー荒れまくったんじゃ。
 ほんなとき、桜の木の下で寝ていた女の子が、目ぇ覚ましてお祈りをした。嵐は止み、枯れた田んぼはよー実ったんじゃ」
 話が終わると、輝媛たち四人は、酒を注いだ盃を手に持ちます。もちろん、彩葉のは米麹の甘酒です。
「ほいじゃけぇ〜サの神さまにぃ〜かんぱ〜い!」
 かつん、と盃が交わされました。
「桜の下で飲むお酒は最高ですねぇ」
 と克地は次の酒を注ぎます。
「お酒……ついにわたしも大人の女性デビュー」
 彩葉は空の盃をクールに見つめました。
「彩葉ちゃんのは甘酒じゃけぇ。ノンアルの」
「僕らのはどぶろくというお酒で、どちらも古い時代から飲まれてきたんだ」
 輝媛が念を押し、克地が補足をしました。
 タケが彩葉に話しかけました。
「お膳にあるご馳走も、他とぁ違うじゃろ?」
 焼き魚にあさり汁、山菜の天ぷら、栗の団子が並んでいました。
「いつもより豪華ですね」
「すまんな、いつも質素で」
 輝媛が謝りつつ汁をすすると、タケは穏やかに彩葉に問いかけました。
「このご馳走、いつの時代のもんかわかるかい?」
 彩葉はご馳走をじっと見て考えます。
「縄の……土器の時代、ですか」
「アタリっ! 縄文時代ね。さすが彩葉ちゃん」
 輝媛がおわんを離し、褒めました。
「『サの神さま』の話は縄文時代からじゃけぇ、当時の雰囲気を味わおうってな」
「その話は何のために作られたんですか」
 彩葉は輝媛にたずねました。
「彩葉は、何でじゃと思う?」
 タケに逆にたずねられ、彩葉は考えました。
「何かの信仰……ですかね」
「何の信仰じゃと思う?」
 と輝媛が重ねます。
「春の神様でしょうか。春が来たお祝いとして」
 二人はにっこり笑いました。
「ええ考えじゃな」
「ああ。よー考えたな、彩葉」
「あたしの弟子として、よー頑張っとるわ」
 口々に褒める二人に、彩葉は照れくさくなりました。
「で、実際は――」
「分からんわ」
 輝媛は笑顔で答え、天ぷらをむしゃむしゃ食べました。
(え……)
「何千年も前から語られとる話じゃけぇ、人や地域で変わるんよ」
(そんな、あいまいな……)
「物語は、形を変えども、人の心を温め、次の世代へ伝えられていくんじゃ」
 タケも魚を食べつつ言いました。
 彩葉はとりあえず腑に落とし、盃いっぱいに注いだ甘酒を飲みました。
「ほういやぁ、克地ちゃん。よー飲みまくってるけど、平気か?」
 見ると、ボロボロと泣いていました。
「ううぇぇぇん……せんせぇ……」
 輝媛たちが話していた間、克地はご馳走を肴に、ずっとどぶろくを飲んでいました。
 輝媛は克地の背中をさすり、あさり汁をやりました。
「あははっ。えーっと……大丈夫ですか?」
「へーきへーき! 克地ちゃんは泣き上戸なんよ。かわええじゃろ?」
「だから〝ちゃん〟付けなんですねぇ〜。あっはっは〜!」
「彩葉ちゃん。急にどうしたん?」
 ふわふわと上機嫌の彩葉は、盃いっぱいの甘酒を、またぐいっと飲みました。
「たぶん、酔っ払っとるんじゃないかなぁ」
 とタケは言いました。
「えっ! これ、ノンアルの甘酒だよね!?」
「甘酒をお酒と勘違いしとるとか」
 輝媛はもう、苦笑いするほかありません。
「彩葉ちゃん。大人になっても飲まん方がええな」
「うわあああん。僕は昔っから弱いんだよ〜」
「弱さは、人である証じゃよ、克地」
「お〜、おばあちゃん、強い!」
 お花見の場は、すっかり収拾がつかなくなりました。

< 9 / 13 >

この作品をシェア

pagetop