砂糖菓子のあなたへ
6月2日。
久々に自分の意思で外に出た。
彼女に会いに行く訳じゃないと半ば言い訳を繰り返し昨日と同じ菓子屋に顔を出した。引き戸は何故か軽く思えた。
「あら!こんにちは〜。」
昨日と同じ言葉、けれどもトーンが違うと思ったのは気のせいだろうか、と思いながら昨日と同じ場所に座った。
「ご注文されますか〜?」
後ろに手を組み、半ば前のめりで聞いてくれた。
「…氷菓子。」
暑いから。ただそれだけ。
「はーい。」
そういい笑顔のまま店の裏に引っ込んで行った。
「……。」
ほんのり暑いのは夏のせいだけじゃないと分かっていたが、認めたくなかった。
数分後、飴湯をかけた氷菓子が運ばれてきた。
「おまたせしました〜。お母さんが作ったやちゃ、美味しいわよ〜。」
そう言いながら隣に座る。ニヤニヤと頬杖を着いて嬉しそうに話していたのを覚えている。
「……。」
一口食べて不本意にも口角が上がった。特製の飴湯だろうか、家とは違う味。我ながら不快な言葉だが、彼女の匂いが染み付いたようなそんな洒落た味がしたのを今も覚えている。
「美味しいじゃろ?」
猫みたいに目を細めこちらをまじまじと見つめている。
「ゃ、ま、まぁ美味いわ。」
氷菓子を食べているくせに体はさらに熱くなった。見つめられていることと、飴湯の味にしか気がいかなかった。
「ふふ。」
勘づいたか、それとも他か、彼女は笑った。上品に。
「お名前聞いても?」
控えめな目線。それでも胸に刺さった。
「……。言わんでえぇやろ。別に。」
教えてしまえば情がうつると思った。離れた時悲しくなるのは彼女だから。ただの客として終わらせるにはあまりにも悔しかった。
「あら、そう…私は_」
「聞きたないわ!」
咄嗟。店に響いた。いや、外にも響いたと思う。店の奥から夫婦が顔を出した。
「あら…ごめんなさい…私ったら…、」
申し訳なさそうに目を伏せた。目は睫毛で影をさした。
「ぁ、や、……。」
唇を噛んだ。自身も顔を伏せた。
「すまん…別に聞きたないわけやなくて…」
聞き苦しい言葉だったと思う。掌に爪が食い込むほどきつく自身の手を握った。
「ほら、こんなご時世言うか知らんけど…いざ離れたら…両方いい気せんやろ…。」
苦しい言い訳に見えたかもしれない。
「……。」
一瞬目を見開いて。察したかのように控えめに口元が笑った。
「私もすんませんねぇ。そないことも知らずに喋ってしもうて……。」
膝元の服をぎゅっと握っていた。
「い、いやぁ。おいも…悪かった。」
目は合わなかった。合わせられなかった。
「今日は帰るわ。明日も来る…から、!」
逃げるように出ていった。彼女の事は見れなかった。昨日と同じだ。