無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される
夢のような時間だった。千隼様に簪を買ってもらい、街で人気だと言う“かすていら”という甘くふわふわの外国のお菓子を食べ、帰り道に着物も新しく仕立てて貰った。
「疲れてないか?」
「はい、大丈夫です。それよりもとても幸せな時間をありがとうございます」
「良かった。簪もよく似合っている」
私はそっと耳元の簪に指先で触れる。
千隼様が選んでくださったのは金色に桜の模様があしらわれた簪で、ルビーという赤い宝石がはめ込まれた、店で一番高価な簪だった。
「馬車を呼んでくるから、ここで少し座って待っててくれ」
「え、大丈夫です。私も一緒に……」
「いや。気付かず悪かった。歩きすぎたな、足袋にすこし血がにじんでいる」
「いえこのくらい平気です」
「いいから待っててくれ」
千隼様は私に上着をかけると、すぐに角を曲がり行ってしまった。