無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される

「驚いたな、真白が古の文字も読めるとは」

「本を読むのが元々好きだったんです」

屋敷からほぼ外に出してもらえないことから、仕方なく始めた読書がここにきて役に立つとは思いもよらなかった。

「俺でもその文字はほとんど読めないな」

「千隼様はゆっくりなさっててください」

千隼様は私の部屋をぐるりと見渡すと、小さな箪笥の上に目を向けた。そこには私が縫った千隼様の着物が積み重ねてある。

「ん? この着物は真白が縫ったのか?」

「あ、えっと、そうでございます。千隼様のお好みにあうかわかりませんが……」

「俺のために?」

「あ……はい」

千隼様は一番上の藍色の格子柄の着物を手に取るとしげしげと眺める。

「……あまり見ないで下さい。恥ずかしいです」

「真白は器用だな。とても丁寧に縫ってある」

「あの、着てくださいますか?」

「勿論だ。今夜早速着る」

「本当ですか。良かったです」

ここで一人ぼっちで千隼様のことを思いなから縫った着物を実際着て頂けるなんて胸がいっぱいだ。

「どうした? お前はすぐ泣きそうな顔をするから心配になる」

「……嬉し涙です」

着物を手に取ったままあわてて駆け寄ってきた千隼様は、困ったように笑う。

「ならいい」

そして慈しむように撫でられた頬はすぐに熱を帯び、胸が高鳴る。

(まただわ、千隼様に触れられると顔が熱くなって心臓が……)

私は高鳴った胸を押さえるようにして深呼吸をしてから、再び日記帳の文字を目で追っていく。

どのくらい没頭していただろうか。私の隣で着物を見つめていた千隼様がふいに私の方にぐっと顔を寄せると、小首を傾げた。

「……いやしかし良く読めるな。俺にはミミズがはってるような文字にしか見えん」

その言葉に思わず私は目を大きく見開いていた。
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