無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される
「鈍いわね。世間体もあるし、なんせあのお優しい千隼様が離縁なんてできるわけないじゃない。だからあんたが離縁状を置いて今のうちに出ていくの!」

「そんな、こと……」

ぎゅっと唇をかみしめる。

「“無能モノ”が初夜もなく放置されて、それでも千隼様の妻の座にしがみついて恥ずかしくないの?! さっさと実家に帰りなさいよ!」

(実家……)

父には嫁ぐ前に言われている。離縁されたとしても帰ってくるなと。確かに“無能モノ”の上、離縁され、表面上は傷物となって戻ってくるなど恥の上塗りしかない。

しかしここを出て実家に帰ることもできない私にはどこにも行く場所なんてない。

「あ、いいこと思いついちゃった。離縁しなくていいわ」

「……え?」

彩芽様が私の耳元に真っ赤な紅をひいた唇で耳打ちする。

「いっそ死んでよ。生きる価値のない“無能モノ”」

「──っ」

正直、死んだ方がラクなのかもしれない。

けれど私はまだ千隼様に何もしてさしあげれていない。

こんな“無能モノ”と知ってもこの結婚を破談にしなかったお慈悲に報いたい。せめて何か一つでいいからお役に立ってから死にたい。

私は震えそうになる身体を両腕で押さえつけると、まつ毛を上に向けた。


「……私は確かに“無能モノ”でございます。千隼様にして差し上げられることがあるのかわかりません。ですがまだやり残したことがございます。それを終えれば出ていきますので……どうか待っていただけないでしょうか?」
< 8 / 61 >

この作品をシェア

pagetop