悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました
「ここか……」
一時間ほど前、画面上で見ていた建物を前にしてひとり呟く。
いずれ、ここには取材で訪れることにはなったけど、まさかこんな形で来ることになるとは思いもしなかった。
母からの電話の後、驚いたまま通話を終えた私に大久保編集長が『どうした』と声をかけてくれた。
兄が緊急オペになったと母から連絡があったと伝え、加えて、驚くことにその搬送先が取材しようとしている水瀬世田谷総合病院だったと告げた。
大久保編集長はすぐに兄の見舞いに行っていいと言ってくれ、『波多野はこの仕事をする運命だったんだな』なんて笑っていた。
ここに向かう道中、あれこれ考えた。気持ちが落ち着いてくる中で、兄が水瀬拓海の勤務する病院に入院することになったのは、極めて好都合だと気づいた。
取材の申し込みをする必要もなく、兄の見舞いで、患者家族という立場で病院に出入りできるのだ。
今回の一件がなければ、病院へはアポを取らないといけなかった。それが、今日から病院関係者として潜入できるのだ。
大久保編集長が言った通り、私がこの取材をするのは運命だったのかもしれない。
十七時を回った病院内へは、入院患者面会専用の入り口から入ると母から連絡をもらっている。
正面玄関とは別の入り口から入り、すぐの受付で兄の名前を言う。
兄は手術後、CCU(冠疾患集中治療室)で経過観察をするらしく、両親は患者待合室で待機していると聞いている。
「あっ、美優」