悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました
1、業界の癌


 地下鉄の通路に五センチヒールのパンプスがコツコツと小粋な音を響かせる。

 今日は昨晩遅くまで社内で仕事をしていたため、通常は九時出勤のところ十時出勤で構わないと上から言われた。

 私、波多野(はたの)美優(みゆう)は『大同社(だいどうしゃ)』で編集者として働いている。

 大学卒業後、晴れて希望していた出版社に就職したものの、配属されたのは本来携わりたかった児童文学とはかけ離れた週刊誌『週刊ジャスティス』の部署だった。

 読書離れといわれる現代、子どもたちが夢中になって読める児童書を作る仕事をしたかった。

 でも、希望の部署が叶わず、かれこれ二年ほど今の部署で日々取材に明け暮れている。この春から三年目に突入した。

 週刊ジャスティスは、創刊五十周年を迎えた日本の情報週刊誌。

 国内外の時事問題をはじめ、様々な分野のスキャンダルも広く記事にしてきた老舗週刊誌のひとつといえるだろう。

〝正義〟を全面に出した、社会主義・告発系の硬派な雑誌だ。

 私が昨日やっと校了を迎えたのは、有名大富豪の保険金殺人疑惑事件。

 謎の死を遂げた沖縄の有名資産家を調べ、事件の真相を追うシリーズ記事だ。

 週刊誌の部署というのもあり、任された仕事によっては各地に出張も多い。

 大同社は、東京駅から徒歩五分圏内にオフィスを持っている。

 複数の企業が入る地上二十階のオフィスビル。大同社はここの五階から八階までをオフィスとして構えている。

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