悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました
「お兄ちゃん、ちょっと飲み物買ってくる」
病室を出て、外科病棟内にある談話室へと向かう。
ぼんやりとしながら小銭入れの中身を指で引っかき回していると、廊下の角を曲がったところで足早に曲がってきた人と真正面からぶつかりかけた。
「あっ」
ぶない……って、まさかの水瀬先生!
そこに立っていたのは、なんと水瀬拓海。
普段通りネイビーカラーのスクラブを身に着け、あからさまに迷惑そうな顔をして私を見下ろしている。
ぶつかりそうになったところ、絶対に接触したくないと言わんばかりな反射神経を発揮して避けられた。
急なことに変な反応を見せた私に構う様子もなく、切れ長の目にじっと射抜かれる。
「ちょうどよかった」
見つめられているというか、睨まれている状態。明らかになにか言いたげな表情に身構える。
「クレームなら、受付に備えつけの意見箱がある。そこに投函してくれ」
「え……?」
ぶつかりそうになったことを謝るでもなく、突如放たれた言葉に理解が追いつかない。
クレーム……?
「あの、クレームって。私はなにも」
「それならなぜ、そこら中で俺の話をしている?」
はっきりとそう言われ、どきっと心臓が跳ね上がる。
まずい、探ってたのもうバレてるの……!?
清掃スタッフのおば様や、長く入院している気さくな患者の男性、昨日は看護師にも声をかけて話を聞いた。どの人にも特に口止めはしていないから、どこかからのルートで本人の耳に入ったのかもしれない。