悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました


 彼の勤務が何時までなのかわからず、念のために二十時という遅めの時間で店の予約を取った。

 二子玉川駅からほど近い創作料理の店。しっかりと話ができるよう、個室の席を押さえた。

 店の予約が済むと、すぐにもらった番号に電話をし、接続された留守電に場所と時間を知らせた。

 本当に来てもらえるのだろうか。

 そんな不安を抱えながら予約の時間少し前に来店し、先に席へと通してもらう。

 もしかしたら、あの場を逃れるために連絡先を渡したけれど、いざ時間が近づいたら急用ができたからと断りの連絡が入ってきたりなんて展開もないとは言い切れない。

 あれだけ話すことはないと言っていたくらいだ。

 来ない可能性のほうが大きいんじゃ……。

 そのとき、部屋の扉がノックされる。「失礼します」とスタッフの声がし、「お連れ様です」と開かれたドアから水瀬先生が姿を現した。

 病院内とは違うスーツの姿でやってきた水瀬先生は、慣れた様子でスタッフが引いた椅子に腰を下ろす。

 揃ったところでドリンクのオーダーを聞かれ、水瀬先生が「とりあえず、水で」と頼んだ。


「飲んでいただいてよかったのに」

「どういう意味だ? 飲ませたほうが気をよくして喋るとでも?」

 水瀬先生は薄い唇をわずかに上げる。しかし、目がまったく笑っていない。

「生憎だが、俺はその手には乗らない。美味い酒しか飲まない主義なんだ」

「そうですか。もちろん、無理にとは言ってませんので」


 なかなかガードは堅い。彼の言う通り、少しお酒も入れば和やかな雰囲気になるかもしれないという思惑はあった。

 喋らせるためと言うよりは、少しでもリラックスできるのではないかと。

 しかし、その必要はないらしい。

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