悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました
「でも、事実として、兄のことはあなたに助けてもらいましたし、感謝してます。患者である兄自身も、あなたのことを信頼しているのが私には伝わってます」
搬送から手術、入院している現在、兄は水瀬先生への不満は口にしていない。それどころか、いい先生だと言っているくらいだ。
「さっき、噂に振り回されているって言いましたけど、どういう意味ですか? 事実ではないと、そういう意味ですか?」
私からの問いかけに、水瀬先生はやっぱり反応を見せず、黙々とスープを楽しんでいる。
「取材を受けてもらえないなら、事実はわからないけれど、そんな風に取り合ってもらえないのってどうしてなのかって。怖い先生だけど、腕は確かだって話もたくさん聞いたし、医療ミスって本当なんですか?」
しばらく黙っていた水瀬先生は、スプーンを置き、やっと正面の私へと目を向ける。
でも、相変わらず表情に色はない。
「だから、ノーコメントだ」
「違うならちゃんと否定しないと! 現に、うちが記事にしなくても悪い噂は立っていると聞きますし」
「否定もなにも、命に優先順位なんてないということだけだ」
「え……?」
今回の取材で初めて、彼の口から内容に言及した発言が飛び出し、目を見張る。
しかし、気のせいだと思えるくらい水瀬先生は変わらぬ落ち着いた様子でグラスの水に口をつけた。
この人は、いったいなにを隠してる……?
佐渡外科部長からの医療ミスや雲隠れのタレコミは、本当なのかと俄かに疑問が浮かんでくる。
そもそも、自分が後継していく病院なのに、そんな責任から逃げるようなこと有り得るのだろうか?
だとすれば、なにか他に理由がある……?
「もしあなたに医療への信念があるのなら、否定すべきところはするべきだし、誤解を招くようなことは避けるべきだと思います。後継される病院のためにも、あなた自身のためにも」
「医療のことなんてなにも知らないくせに、ずいぶんと知ったふうな口を利くな」
水瀬先生はふっと笑う。
そんなタイミングでメイン料理を運んできたスタッフが部屋へと入ってきた。