悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました
パソコン画面を見つめながら無意識に「んー……」と唸っていたところ、向こうのほうで手をぶんぶん振っているのが視界に入り目を向ける。
その主は大久保編集長で、顔を上げた私と目が合うとにっと笑みを浮かべた。
「波多野ー、大丈夫か。いつにも増して顔が険しいぞ」
「えっ、そうですか?」
「あんまり根詰めるなよー」
気遣いの言葉をかけてくれる大久保編集長に「大丈夫です!」としっかりと返事をする。
昨日の取材の内容を文字起こししながら、記事にするには役立たない部分ばかりで軽く落ち込んでいたところだ。
結局、断固としてノーコメントを貫いていた水瀬先生に惨敗した感じ。
本当に手強い人だな……。
でも、まったく収穫がなかったわけではない。
取材としては成り立たなかったけれど、数時間一緒にいて病院内では知り得ることのできない彼の様子を窺うことは成功した。
思っていたより無口ではなかったこと。取材にはまともに答えてくれなかったし喋り口調は辛辣だけど、話ができない人ではなかった。むしろ、情けないところを見せちゃったのにしっかり聞いてくれたりして……いや、違う! そうじゃない。
とはいえ、別に打ち解けたわけではない。改めて約束を取りつけることもできなかった。
『否定もなにも、命に優先順位なんてないということだけだ』
帰り際まで気になっていたあの言葉の意味も探ることはできなかったし……。