悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました


「お疲れー」


 マウスをカチカチと動かしていた手の横に、サイドがねじられた一粒チョコレートがひとつ置かれる。

 振り返ると同期、杉山武流(たける)が立っていて、私のパソコン画面をのぞき込んでいた。


「ありがとう。お疲れ様」

「それ、波多野が担当になったんだ」

「え? あー、うん。編集長から頼まれて」


 杉山は「ふ~ん」と言って、傍らに置いてある水瀬総合病院のパンフレットを手に取る。


「これ、ちょっと興味あったんだよな。原嶋が降りたときに担当になりたいって編集長には言ってたんだけど、俺が立て込んでたからな」


 杉山が水瀬病院について書きたいと思っていたとは知らず、振り返って「そうなの?」と反応してしまう。

 杉山も、千寿と同じく週刊ジャスティスを希望して入社した編集者のひとり。

 でも、入社直後の同期会で聞いた話は、大同社ではない出版社への入社が第一希望だったという。

 週刊ジャスティスと肩を並べる他社の週刊誌編集者を学生時代から志望していたものの、念願叶わず大同社への入社を決めたのだ。

 経験を積んで、いつかは転職したいだなんて言っていたのを知っている。

 それにしても、千寿は担当から外れたいと希望し、杉山は書きたいと申し出ていたなんて、編集部内の同期の動きをまったく把握していなかった。


「なんで担当したかったの?」

「いや、ちょろっと調べたけど、なんか面白そうだからさ。三兄弟が病院の後継者で、三男が医療ミスだろ? これは兄弟間の対立とか、後継者争いとか、いろいろありそうだと思って」

「えぇ? そういう切り口?」

「そっ、俺のジャーナリズム魂がワクワクするやつだな」


 杉山はそんな台詞を吐き、「行き詰まったらいつでも代わってやるよ」と自分の席へと戻っていった。


 後継者争いねぇ……。

 置かれていったチョコレートの包みを引っ張り開け、早速口に放り込んだ。

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