悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました
スタッフステーションを出て、医局へと向かう。その途中、思い立ってスマートフォンを取り出し、連絡先から自分と同じ苗字の欄をタップした。
《──はい》
長丁場のオペにでも入っていれば通話には応じられないだろうと思ったが、コール三度目で声が聞こえてきた。
電話の相手は、兄の晃汰。三人兄弟の長男で、現在は水瀬横浜総合病院の院長を務めている。憧れ、背中を追いかけてきた心臓血管外科医のひとりだ。
「晃兄、お疲れ」
《なんだ、拓海が電話してくるなんて珍しいな。どうかしたか》
「ああ、もしかしたら、そっちに変な女が行くかもしれない」
なんの説明もなく端的に言いすぎて伝わらなかったのか、兄は《は?》と訳がわかりませんと言わんばかりの反応をする。
《おいおい、まさか前みたいなストーカー女とかじゃないだろうな》
「違う、そういうのじゃない」
まだ研修医だった遠い昔、年上の看護師の女性に好意を抱かれ執拗に追い回された過去がある。
〝変な女〟などと形容したから、その当時のことを思い出したのかもしれない。
「実は、週刊誌の記者に嗅ぎ回られてる」
《例の件か。ずいぶんと大規模になってきたな、佐渡先生のやることも。そろそろこっちだって黙ってられないって話だ》
「わかってる。でも、病院のためにも大事にはしたくない。記者が来ても、適当にあしらっておいてほしい」
そう言うと、電話の向こうで兄はふっと笑う。
《お前なりに考えがあるってことか。わかった、でも、なにかあればすぐに連絡してこい。ちょうど漣にも会う約束がある。話しておくよ》
二番目の兄、漣のところにも記者が行く可能性を考えて、この後に連絡をしようと思っていた。
伝言してもらえるとのことで、「よろしく」と話を託す。
兄との通話を終え、どんよりしていた気持ちが少しだけ軽くなっているような気がした。


