ツンデレ男児 ― 本音を出したら、ちゃんと届いた ―

第8話 つながる違和感

——“いい子やってるだけ”。

アイカ先生の言葉が、頭から離れなかった。

あれから、数日。

トワくんを見るたびに、考えてしまう。
あの子は、本当に“楽な子”なんだろうか。

午後、保護者懇談の時間。
トワくんの母親は、穏やかな人だった。

「トワくん、園ではどんな様子ですか?」

「とても落ち着いていて、周りもよく見てくれる子です」

本当のことを伝える。

「……弟さんがいらっしゃるんですよね?」

そう聞いた。

「はい、三歳の子がいます。同じ園です」

やっぱり。

「仲はいいですか?」

「いいですね。トワくんはすごく面倒見がよくて」

少しだけ笑う。

「ワクが生まれたときも、あまり手がかからなくて助かりました」

その言葉に、胸が少しざわつく。

「そうなんですね」

「二歳の頃から、“お兄ちゃん”って感じで」

母親は、懐かしそうに続けた。

「我慢もできる子で」  

——我慢。

その言葉が、引っかかった。

「……そうなんですね」

それ以上は聞かなかった。
懇談が終わって、教室に戻る。
子どもたちの声が、いつも通りに響いている。
トワは、いつもの場所にいた。
少し離れたところから、全体を見ている。

——二歳の頃から。

——お兄ちゃん。

——我慢。

頭の中で、言葉が繋がっていく。

「せんせい」

呼ばれて振り向く。 トワだった。

「これ、どこ置けばいい?」

制作の道具を持っている。

「ここでいいよ」

「わかった」

それを置いて、すぐに次の子の方へ行こうとする。
そのとき、何気なく聞いた。

「トワくんって」

「なに」

「小さいときから、お兄ちゃんしてたでしょ?」

トワは少しだけ考えて、

「……うん」

と答えた。

「ワク、すぐ泣くし」

さらっと言う。

「だから、ぼくがやるの普通だった」

——普通。

また、その言葉。

「そっか」

「うん」

それ以上、何も言わない。
当たり前のことみたいに。
でも、

——その“当たり前”は、 本当に、当たり前なんだろうか。

胸の奥が、少しだけ重くなる。
トワはもう、別の子のところへ行っていた。
いつも通り、周りを見て、必要なことをして、何も言わずに。

——ああ。私は、ようやく気づいた。 この子は、“できる子”なんじゃない。“そうしてきた子”なんだ。
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