妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
「私ね、お気に入りのものはイノーラに何でも奪われて悲しかったけれど――」
 とにかく何か言わなければ。
 このまま黙っていると心臓がもちそうにないため、私は思いつくままに喋った。

「イノーラがクロード王子を奪ってくれたことだけは感謝してるの。昔はクロード王子と結婚し、良き妻として一生を彼に捧げるのが私の使命だと思っていたけれど、いまとなってはあの人を生涯の伴侶とすることなんて考えられないもの」

「当たり前だ。セラの双子の妹を妻として迎えておきながら、婚約破棄したセラを愛人にしようとするような度し難いクズ野郎にセラを渡せるか」

 リュオンは繋いでいた手を離し、私を抱きしめてきた。強く。

「ちょ、ちょっとリュオン、苦しいわ」
 あまりにも強い力に身じろぎすると、「悪い」と彼は謝って手を離した。

「あいつとセラがキスをする妄想をしてつい。鳥肌が立った」
「……止めて。私も鳥肌が立ってしまったわ」

 寝転んだまま腕を摩る。
 想像だけで身体が強烈な拒否反応を起こしている。
 もう私はクロード王子を生理的に受け付けられないようだ。

「おれとキスするのは平気だよな?」
 私の髪を愛おしそうに指で梳きながら、リュオンが悪戯っぽく笑む。

「あら、どうかしら。試してみましょう?」
 彼の言わんとするところを読み取って笑い、私たちは互いに身を寄せ合ってキスを交わした。

 数秒して離れ、二人してくすくす笑う。

 美味しいものを食べたときと同じ。幸せを感じると、人は自然と笑ってしまう。
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