妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
 二十分後。
 レースカーテン越しに初夏の日差しが差し込む本館のサロンにて、私たちは四人でテーブルを囲んでいた。

 突然訪れたにも関わらず、エンドリーネ伯爵は執務を中断し、美味しい紅茶と焼き菓子で私をもてなしてくれた。

「――つまり、レアノールから逃亡してきた伯爵令嬢セレスティア・ブランシュ――改め、セラを侍女として雇ってほしいというわけだな」

 紅茶と焼き菓子の甘い香りが漂う中、バートラム・エンドリーネ伯爵は感情の窺えない声音でそう言った。

 バートラム様は口髭を綺麗に整えた銀髪の中年男性だ。
 厳格そうな顔立ちに、凍てつく冬の湖のような青い瞳。

 冷静沈着な切れ者と領民からは評されているらしいけれど、それが嘘ではないことは見た目や雰囲気からも伝わってきた。

 彼の鋭い眼光を受けていると、心の奥底まで見抜かれているようで不安になり、どうにも落ち着かない。

「はい。セラは八年前、道端で衰弱していたおれを診療所まで運び、助けてくれた恩人です。世界広しといえども、他国の貧民を助けるような善人などそういるものではありません。その人柄はおれが保証します。温かい春の心を持ったセラなら女性不信に陥ったユリウスの心を溶かしてくれるはずです。引いては、厄介な魔法の発動も抑えられるようになるかもしれません」

 女性不信? 厄介な魔法? 気になる単語が二つも出てきた。

「そうね……そんな未来が訪れたらどんなに良いことでしょう」
 黒髪に明るいオレンジ色の目をしたスザンヌ様がバートラム様の隣でため息をついた。

「あなた。たとえ紹介状がなくとも、わたくしたちやラスファルのために尽くしてくれた大魔導師の推薦なら大丈夫でしょう。誓約書を書かせずとも秘密は守るはずです」
 念押しするようにスザンヌ様がこちらを見る。
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