妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
 リュオンと揃って見上げれば、赤い絨毯が敷かれた階段の踊り場から息を呑むほど美しい一人の少年がこちらを見下ろしている。

 白いシャツに黒のズボン。
 踊り場にある窓から差し込む陽光を浴びてキラキラと輝く白銀の髪をひと房だけ伸ばして尻尾のように括っている。

 その瞳は水色で、肌は白く、全体的に色素が薄い。
 顔だけ見ると少女のようでもあるけれど、その細い身体は間違いなく男性のものだった。

 料理人のネクターは中年だと言っていたから、該当する名前は一つしかない。

 ユリウス様の弟、ノエル・エンドリーネ様だ。
 年齢は私より一つ年下の十六歳。

「その人は誰?」
 ノエル様は私を見て怪訝そうな顔をした。

「初めまして。セラと申します」
 私は鞄を床に置いてスカートを摘み、恭しく一礼してみせた。

 なかなか上出来なカーテシーができたと思ったのだけれど、ノエル様は表情を動かすことなく水色の瞳をリュオンに向けて説明を求めた。

「今日からここで侍女として働くことになった。エンドリーネ伯爵夫妻の許可は得ている」
 ノエル様は唇を動かした。
 声が小さくて聞き取れなかったけれど、「余計なことを」と言ったようだ。

 実は私には読唇術の心得がある。
 これは淑女教育の一環として身に着けたのではなく、優秀な諜報員を主役にした本に一時期熱中していたイノーラに面白半分で覚えさせられたのだ。

 間違えると容赦なく鞭が飛んでくるため必死になった結果、わずかな唇の動きでも読み取れるようになった。
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