妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
豪奢なシャンデリアに美しい風景画、品の良い調度品の数々が私を出迎えた。
広いサロンの長椅子に一人の青年が横たわっている。
顔立ちは整っていて、王都の美術館で見た彫像のよう。
髪は黒く艶やか。
服はシャツにズボンと、ノエル様の格好に似ているけれど、襟元にはさりげなく細やかな刺繍が施してあった。
何やら苦しげに眉間に皺を寄せ、仰向けで眠る彼の胸には一冊の本。
彼がユリウス・エンドリーネ、今日から私の主人となるお方だ。
「……寝てるな。良かった。寝るときはいつも傍にいたルチルがいなくなったせいで、今日も全然眠れなかったって言ってたから」
ユリウス様の胸元から本を取り上げ、音をたてないよう静かにテーブルに置いたリュオンの声には安堵の響きがある。
どれほどユリウス様を大切に思っているのか、その眼差しと口調で理解した。
「出よう。紹介はまた後に……。いや、ちょっと待てよ。セラ、ユーリに触れてみてもらえるか?」
「え? でも。私が――女性が触ったら大変なことになってしまうのでしょう?」
心労《ストレス》がかかるとユリウス様は猫になる。
八年ほど前からユリウス様にはそんな厄介な魔法がかかっていて、現在その心労の元になっているのが女性という存在。
というのも、三か月前に行われた結婚式当日に花嫁に逃げられたからである。
少しずつ愛を育んできたはずの生まれつきの婚約者に逃げられたおかげで、ユリウス様は女性不信と女性恐怖症を同時に併発する事態となってしまった。
広いサロンの長椅子に一人の青年が横たわっている。
顔立ちは整っていて、王都の美術館で見た彫像のよう。
髪は黒く艶やか。
服はシャツにズボンと、ノエル様の格好に似ているけれど、襟元にはさりげなく細やかな刺繍が施してあった。
何やら苦しげに眉間に皺を寄せ、仰向けで眠る彼の胸には一冊の本。
彼がユリウス・エンドリーネ、今日から私の主人となるお方だ。
「……寝てるな。良かった。寝るときはいつも傍にいたルチルがいなくなったせいで、今日も全然眠れなかったって言ってたから」
ユリウス様の胸元から本を取り上げ、音をたてないよう静かにテーブルに置いたリュオンの声には安堵の響きがある。
どれほどユリウス様を大切に思っているのか、その眼差しと口調で理解した。
「出よう。紹介はまた後に……。いや、ちょっと待てよ。セラ、ユーリに触れてみてもらえるか?」
「え? でも。私が――女性が触ったら大変なことになってしまうのでしょう?」
心労《ストレス》がかかるとユリウス様は猫になる。
八年ほど前からユリウス様にはそんな厄介な魔法がかかっていて、現在その心労の元になっているのが女性という存在。
というのも、三か月前に行われた結婚式当日に花嫁に逃げられたからである。
少しずつ愛を育んできたはずの生まれつきの婚約者に逃げられたおかげで、ユリウス様は女性不信と女性恐怖症を同時に併発する事態となってしまった。