妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
 では何故リュオンが変身魔法を解除できるかというと、エンドリーネ伯爵が裏ルートで入手した古文書を読み込んだから。

 古代語で書かれた本を読み解くには魔法の専門家でも舌を巻くような知識がいる。

 たとえ苦労の末に読み解いたとしても、解除魔法には莫大な魔力が必要なため、並の魔女では発動不可能。

 猫と化したユリウス様が役人に見つかる前にリュオンと巡り会えたことはエンドリーネ伯爵にとって僥倖だっただろう。

 他人に変身魔法をかけられた被害者だと主張することで実刑を免れたとしても、ユリウス様は貴重な古代魔法の見本《サンプル》として魔法研究所に送られていた可能性が高い。

「わかったわ」
 私は涙目のユリウス様に可愛らしく――いや、本人は至って真剣なようだから可愛いなんて言ったら失礼か――威嚇されつつ、言われた通りに部屋を出た。

 パタンと扉を閉じた後、呟く。

「……変身魔法を解くのがあんなに大変だとわかっていて、それでもユリウス様を寝かせて差し上げたかったのね」

 苦笑が零れる。
 彼は私をお人好しだと言ったけれど、彼のほうがよっぽどお人好しだと思う。

「うーん」
 座り続けて凝り固まった全身の筋肉をほぐすべく伸びをしてから、私は暇潰しに別館を散歩することにした。

 まずは一階。
 厨房には夕餉の支度中のネクターがいるはずだから、挨拶をしよう。
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