初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
だが、それでも何も言わない。

大聖堂に、神官の声が響く。

「これより、両名の婚姻の儀を執り行う」

静寂。すべての視線が、私たちへと注がれる。

逃げ場は、どこにもない。

「誓いますか」

その問いだけが、まっすぐに向けられる。

心臓が一瞬だけ強く打った。

だが、それだけだった。

感情は、もう閉じている。

私はゆっくりと唇を開いた。

「……誓います」

それは、あまりにも平坦な声だった。

喜びも、戸惑いも、何もない。

ただ言葉だけが、そこにあった。

周囲から、安堵と祝福のざわめきが広がる。

拍手が起こる。

まるで、すべてが順調に進んだかのように。

だが――これは、祝福される結婚ではない。

ただの、取り決め。

形だけの、婚姻。
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