初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
部屋に戻ると、静寂が広がっていた。

豪奢に整えられた空間。

柔らかな灯り、磨き上げられた調度品。

どれも美しく、完璧で――だからこそ、どこか居心地が悪い。

私はゆっくりと鏡の前に立った。

そこに映るのは、純白のドレスに身を包んだ花嫁。

整えられた髪。飾られた装飾。誰が見ても、祝福されるべき姿。

けれど。

「……違う」

小さく、呟く。

これは、私じゃない。

鏡の中の自分を見つめながら、唇を噛む。

こんな姿を望んだことは、一度もない。

私は――

「奪われた側なのに」

ぽつりと零れた言葉が、胸に重く落ちる。

国を失い、すべてを奪われて。

それなのに、こうして花嫁の姿をしているなんて。

おかしい。

間違っている。

私は、そっと目を伏せた。

このまま流されてはいけない。

――心まで、奪われてはいけないのだから。
< 13 / 71 >

この作品をシェア

pagetop