初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
彼は、差し出した手を下ろさなかった。

代わりに、一歩だけ距離を詰めてくる。

逃げられない距離。

「……屈しろとは言っていない」

低く、静かな声。

その響きに、胸がわずかに揺れる。

「ただ――」

視線が、まっすぐに絡む。

「俺と共に、これからの人生を歩んでほしい」

あまりにも真っ直ぐな言葉。

思わず、言葉を失う。

そのまま見つめられていると、心の奥まで見透かされてしまいそうで。

私は、視線を逸らした。

「……皇太子妃の役目は果たします」

やっとの思いで言葉を紡ぐ。

「ですが」

喉が、少しだけ震える。

それでも、はっきりと。

「あなたを好きになることはありません」

言い切った瞬間、胸が締めつけられた。

本当は――違うかもしれないのに。

それでも私は、その言葉にしがみつくしかなかった。
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