初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
彼は、それ以上近づいてこなかった。

伸ばしかけた手も、そのまま下ろす。

静かに、一歩分の距離を取った。

「……分かった」

あまりにもあっさりとした声。

思わず顔を上げる。

「君が、俺を夫と認めるまで触れない」

淡々と、けれど揺るがない響き。

「安心してくれ」

その言葉に、胸がわずかに痛む。

なぜ、そんなに優しいのか分からない。

「俺は、君を支配したいわけじゃない」

静かに続ける声。

そのまま、私は背を向けた。

これ以上、見ていられない。

心が揺れてしまう。

――その時だった。

後ろから、そっと腕が回る。

強引ではない、けれど逃れられない抱擁。

「……君の心が欲しいんだ」

耳元で、低く囁かれる。

その一言が、胸の奥に深く落ちた。

拒んでいるはずなのに。

なぜか、離れられなかった。
< 21 / 71 >

この作品をシェア

pagetop