初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
差し出された花を、私はしばらく見つめていた。

見覚えのある色、形。

胸の奥が、かすかに揺れる。

けれど――

「……敵国の花など、見たくありません」

そう言って、視線を逸らした。

受け取ることもせず、ただ距離を置く。

これ以上、触れてはいけない。

そう分かっているのに。

風がそっと吹き抜ける。

花の香りが、やわらかく頬をかすめた。

懐かしい香り。

気づけば、小さく呟いていた。

「……懐かしい」

はっとして口を閉じる。

その瞬間、彼が静かに近づいた。

拒むよりも先に、そっと手が伸びる。

摘んだ花を、私の耳元へと添えた。

「やはり、似合う」

低く落ち着いた声。

触れられているわけではないのに、なぜか距離が近く感じて――

私は動けずに、そのまま立ち尽くしていた。
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