初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
彼は、それ以上近づいてこなかった。

花を添えたあと、すぐに一歩下がる。

触れそうで触れない距離を、きちんと保つ。

その態度に、わずかに戸惑う。

「……無理に、俺を好きにならなくていい」

静かな声が、風に乗って届く。

思わず顔を上げると、彼は穏やかにこちらを見ていた。

責めるでもなく、期待するでもなく。

ただ、そこにいる。

「ただ、ここで一緒に過ごしてほしい」

その言葉に、胸の奥がかすかに揺れる。

どうして、そんなことを言うのか分からない。

けれど、続けられた言葉が、さらに深く響いた。

「安心してほしいんだ」

低く、優しく。

「もう誰も、君を襲ったりしない」

その一言に、ふいに力が抜けそうになる。

私は何も答えられず、ただその場に立ち尽くしていた。
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