初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
ざわめきの中、私はただ立ち尽くしていた。

その時だった。

ふいに、腰に触れる感触。

はっとして顔を上げると、いつの間にか彼が隣に立っていた。

自然な動きで、私の腰に手を添え、そのまま引き寄せる。

逃げ場のない距離。

けれど、不思議と嫌ではなかった。

そのまま、ゆっくりと周囲を見渡す。

先ほどまで囁いていた貴族たちへ、まっすぐに視線を向ける。

そして、静かに口を開いた。

「戦利品? 失礼な物言いだな」

場の空気が、一瞬で張り詰める。

彼の声は低く、冷静で――けれど確かな威圧を含んでいた。

「彼女は間違いなく、俺の妻だ」

さらに、わずかに力を込めて私を引き寄せる。

「――何か?」

その一言で、すべてが止まった。

誰も、何も言えない。

ただ、沈黙だけが広がる。

私はその腕の中で、初めて――守られていると感じていた。
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