初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
やがてダンス曲が流れ始めた。

彼は何事もなかったかのように、ゆっくりと私の前に手を差し出した。

その仕草はあまりにも自然で、迷いがない。

思わず、戸惑いが口をついて出る。

「……私が、あなたの相手を?」

視線を上げると、彼はまっすぐに見つめ返してきた。

「君しかいないんだ。リゼリア」

その一言に、胸がわずかに揺れる。

だが、すぐに周囲の視線が突き刺さった。

「やはり、形だけの結婚なのでは?」

「アルヴィオン皇太子殿下がお可哀想に……」

ひそひそとした声が、耳に残る。

逃げ出したい。

けれど――私は、ゆっくりと息を整えた。

差し出された手を、見つめる。

そして、迷いながらも、その手を取った。

指先が触れた瞬間、心臓が強く鳴る。

もう、逃げることはできなかった。
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