初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
夜会を終え、部屋へ戻る帰り道。

気づけば私は、彼の背中を目で追っていた。

歩幅も、立ち居振る舞いも、すべてが自然で――

なぜか、目を離せない。

その時、ふいに彼が振り返る。

「疲れただろう」

低く、やわらかな声。

気づいた瞬間には、片腕で引き寄せられていた。

「……っ」

突然の距離に、息が詰まる。

逃げようとするよりも先に、体が固まる。

「今日はもう休め」

そう言って、アルヴィオンは私の手をそっと取る。

そして――私の手の甲に、軽く口づけた。

「……っ」

胸が、大きく跳ねる。

ただそれだけの仕草なのに、心が落ち着かない。

どうしてこんなに、鼓動が速くなるのか分からない。

私は何も言えず、ただ彼を見上げていた。
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