初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
歩いていると、町の人々の視線が彼に向けられる。

けれどそれは、恐れではなかった。

一人の店主が、笑顔で声を張り上げる。

「殿下! 今日は新しい魚がありますよ!」

その明るさに、思わず足を止める。

さらに別の店からも声が飛ぶ。

「殿下! うちの店にも寄って行ってください!」

まるで、気さくに親しい相手へ話しかけるような調子。

誰もが自然に、彼へ声をかけている。

その様子に、私は目を見開いた。

こんな光景、見たことがない。

王族とは、本来、畏れられる存在のはずなのに。

彼は軽く手を上げ、穏やかに応じている。

その表情には、威圧も誇示もない。

ただ、当たり前のようにそこにいるだけ。

「……慕われているのね」

思わず、呟く。

それは恐怖ではなく――確かな信頼だった。
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