初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
背後からの声に、心が揺れたその瞬間だった。

ふいに、視線を感じる。

顔を上げると、アルヴィオンがこちらを見ていた。

その目は、穏やかなようで――どこか鋭い。

「……セリオスは、仕えて長いのか」

何気ない問い。

けれど、その奥にあるものに気づいてしまう。

「……子供の頃から、一緒です」

答えながら、胸がざわつく。

次の瞬間、彼の手が私の腕を軽く引いた。

自然な動きで、距離を引き寄せられる。

まるで、当然のように。

そのまま、彼は視線をセリオスへ向けた。

そして、低く一言。

「護衛は、距離を保て」

声は静か。

怒りも荒さもない。

それでも――逆らえない響きだった。

セリオスが一歩下がる気配を感じる。

私はその腕の中で、息を呑んだ。

怒っているわけではない。

けれど、はっきりと分かる。

――許してはいないのだと。
< 35 / 71 >

この作品をシェア

pagetop