初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
帰り道、彼は変わらず穏やかだった。

隣を歩きながら、ふと私を見て問いかける。

「楽しかったか」

一瞬、答えに迷う。

けれど、気づけば言葉が零れていた。

「……ええ」

小さな声。

自分でも驚くほど、自然に出た言葉だった。

すると彼は、わずかに目を細める。

「また来よう」

そのまま、少しだけ身を屈めて私の顔を覗き込む。

距離が、近い。

「君の喜ぶ顔が見たい」

その言葉に、胸が強く鳴る。

逃げたいのに、目を逸らせない。

そのまま見つめ返してしまう自分に、戸惑う。

どうして。どうして、こんなにも心が揺れるのか。

私はそっと視線を落とした。

――分からない。

ただ一つ、確かなのは。

「……どうして、こんなに苦しいの」

胸の奥に広がるこの感情が、

もう、無視できないほど大きくなっているということだった。
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