初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される

第5章 引き裂かれる心

夜の静寂が、城を包み込んでいた。

灯りを落とした部屋の中、私は一人、窓辺に立っていた。

風が、静かにカーテンを揺らす。

その時――

「……リゼリア姫、こちらへ」

低く、押し殺した声が響いた。

はっとして振り返る。

扉の隙間に、影が立っていた。

「……セリオス」

胸が、強く鳴る。

彼は周囲を警戒するように視線を巡らせると、短く言った。

「こちらへ」

迷う暇もなく、私は彼の後を追った。

廊下を抜け、人目につかない裏庭へ。

誰にも気づかれない場所。

夜の闇に包まれたその空間で、彼は足を止めた。

静寂が落ちる。

やがて、ゆっくりと振り返る。

その瞳には、強い決意が宿っていた。

「……リゼリア姫」

低く、確かな声。

「時は来ました」

その一言が、胸の奥に重く響いた。
< 41 / 71 >

この作品をシェア

pagetop