初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される

第6章 逃亡と告白

「早く帰ってくる。それまで待っていてほしい」

出立前、彼はそう言っていた。

あの時の穏やかな声が、胸に残っている。

けれど――

私は静かに目を閉じた。

扉を開ける。

夜の闇が、私を包み込む。

足音を忍ばせながら、城の廊下を進む。

誰にも気づかれてはいけない。

「……急いで、国境まで行くのです」

小さく、自分に言い聞かせる。

「気づいたら、アルヴィオンは追ってくるでしょう」

だからこそ、迷っている時間はない。

外套を深く被り、最低限の荷物だけを手にする。

すべてを置いていく。

あの場所も、あの人も。

胸の奥が、わずかに痛んだ。

それでも、足は止めない。

止めてしまえば、戻れなくなる。

「……やるしかない」

小さく呟き、私は闇の中へと踏み出した。
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