初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
その時だった。

遠くから、かすかな音が聞こえる。

――馬の足音。

一度気づいてしまうと、はっきりと分かった。

土を打つリズム。

確実に、こちらへ近づいてくる。

「……気づかれた」

息が浅くなる。

足を速めようとしても、体が思うように動かない。

逃げなければいけないのに。

音は、どんどん近づいてくる。

やがて、その気配がすぐ背後まで迫った。

私は、ゆっくりと振り返る。

暗闇の中、はっきりと分かるその姿。

「……アルヴィオン……」

思わず、名を呼んでいた。

彼は馬上から私を見下ろし、低く問いかける。

「そんな恰好で、どこに行くと言うのだ」

責めるようでも、怒るようでもない声。

それが、余計に胸を締めつけた。
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